
連載
再開「キネマ51」:第2回上映作品は「Iké Boys イケボーイズ」
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グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏がオーナーを務める架空の映画館「キネマ51」では,新作映画を中心としたさまざまな映像作品が上映される。
再開第2回の上映作品は,アメリカの特撮映画「Iké Boys イケボーイズ」だ。
「Iké Boys イケボーイズ」公式サイト
いろんな意味で懐かしさいっぱいのアメリカ産特撮
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こんにちは。「キネマ51」オーナーの須田です。
関根:
こんにちは。「キネマ51」支配人の関根でございます。夜はbar plastic modelという店もやっております。よろしくお願いします。
須田:
前回はゲストをお迎えしての「キネマ51」でしたので,2人でやる通常版としては再開後,初めてとなります。
関根:
心なしかオーナーの顔も緊張感がなくなっている気が……。
須田:
いやいやそんなことないですよ。
関根:
そうですか? では早速始めましょうか。
須田:
ですね……。で,最近どうですか。
関根:
あ,この感じ! オーナーがとりあえず雑に話振ってくる感じ。久しぶりの感覚,懐〜かしいなぁ〜。
須田:
なんですか,その「熱中時代教師編2」の主題歌[1]みたいな言い方。
関根:
そうそうそれですよ,読者を置いていく昭和ネタも躊躇なくぶっ込んでくる,それそれ。いやぁ,オーナーになっても変わらずで安心しました。
須田:
そんなふうに懐かしんでいる場合じゃないんですよ。今日の上映作品を紹介してくださいよ。
関根:
もちろんです。でも,そんな感じの映画だったんですよ,今回の映画。というわけで,今日紹介する映画は「Iké Boys イケボーイズ」。アメリカ映画です。
須田:
イケボですね。
関根:
なんですかその人気声優さんみたいな略は。
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須田:
さて,どんな作品かといいますと。
関根:
あ,はいはい。舞台は1999年6月は世紀末のオクラホマ州。日本のアニメやゲーム,サブカルチャーが大好きなオタク高校生の男の子2人が主人公です。
須田:
最近ね,ちょっと増えてきてる人達ですよね。なんかね,ド田舎らしいんですよ,オクラホマって。
関根:
本人達がそう語るシーンがありますね。僕達の意見じゃないですよ。
須田:
も,もちろんですよ。彼らがね,言ってる。
関根:
彼らが,70年代に日本で撮られたカルトアニメ映画のDVDを入手したんですよ。その映画は大作といわれながら残念ながらまったくヒットせず,監督も引退。幻の作品となっていたものです。そのDVDを彼らと日本から来た留学生の女の子の3人で観たところから物語が始まります。
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須田:
アニメ映画の内容が,のちのストーリーに関わってくるんですよね。
関根:
ですね。世紀末に何かを降臨させて世界征服しようとたくらむカルト教団に戦いを挑む変身ヒーローが,なぜか怪獣と戦うことになるという内容で,日本の大御所監督が作っているにもかかわらず封印作品となっていて,ずっと観られなかったという設定です。
須田:
そのアニメ映画監督役がなんと岩松 了さん[2]。もうね,岩松さんが出ていたらその作品はハズレなしですから。期待値が上がりますよ。
関根:
冒頭の岩松さんの登場から,とにかくエリック・マキーバー監督の日本サブカルチャーへの愛が炸裂してましたね。
須田:
はい。
関根:
クレジットを見てから気付いたというか,ほとんど分からないのですが,そのアニメ映画のナレーションを樋口真嗣監督[3]がやっていたり。
須田:
ほんとですか! まったく気が付きませんでした。
関根:
ですよね。事前情報がなければまず気付きません。観直しましたが,かなり声を変えている感じでした。それと,このアニメ映画の話,「ノストラダムスの大予言」のオマージュかなと思いました。
須田:
なんかありましたねぇ。70年代の日本映画ですね。
関根:
1999年にどんなことが起こって人類が滅亡するのかを想像で描いた作品ですが,核戦争後の人類の描写などが人権団体などから訴えられ,いろいろな経緯があって公式の映像作品としては,アメリカで一度発売されたビデオとLDしかないというカルト映画です。
須田:
丹波哲郎さんは出てるんですか?
関根:
出ていたような。
須田:
多分何か出ているイメージが。
関根:
なかったとしても,多分出てる。
須田:
そこは言い切りましょう。僕達は確認とかしません!
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監督の日本カルチャー愛のすごさ
須田:
どうでしたか,映画。
関根:
正直,ストーリーは予想どおりのシンプルな展開なんですが,その途中に挟まれる小ネタというか,遊びの部分がとにかくすごい詰め込みようで忙しかったです。
須田:
すごかったです,情報量。
関根:
印象に残ったところを,いくつかあげるとすると。
須田:
まずは釈 由美子さんですよね。監督が「ゴジラ×メカゴジラ」を観て一目ぼれしたそうで,熱烈オファーで出演が実現したという。彼女の演技,すごくうまいんだなって今作を観て感じました。
それから,今,みなさんは超A級の特撮映画を観慣れているじゃないですか。極上のCGや,最高のアクションなんかも。カメラワークもゴリゴリで。でも,この映画に出てくる自主制作映画のオマージュ的な,ゆるゆるアクションシーンみたいな安らぎを求めている人も実はいるんじゃないかと思うんです。
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関根:
おっしゃりたいことは分かります。これは僕は嫌いじゃないやつですけど,等身大の着ぐるみアクション。戦隊ものの軽快アクションではなくて,重い着ぐるみのボテボテアクション,しかも大学のキャンパス中庭で戦っているシーンなんかはいい感じでした。
今の人が見るとすごく違和感あるかもしれませんが,かつて「ウルトラファイト」[4]っていうTV番組があり。
須田:
ありましたね。あー,あれのオマージュ。
関根:
ではないかと。ウルトラマンに出ていた怪獣達が等身大で登場して野外でプロレスや相撲といった感じで格闘するという謎番組で,当時のTBSアナウンサー,山田二郎氏が実況までつけていたんですよね。
須田:
いろんな流行を取り入れた珍品ですね。そしてこの映画のヒーローキャラ,僕は顔の造形が「ガンダム」に思えたんですよね。
関根:
なるほど,確かにそんなイメージはありますね。僕は,等身大ヒーローってことも含めて,「ウイングマン」[5]に似ているなぁと感じました。
須田:
あ,そうか,ガンダムでもありウイングマンでもあるようなそんな感じですね。主人公の彼が持ってたフィギュア,あれ多分ウイングマンの改造ですよ。
関根:
そういうところ,なぜか自信たっぷりに言い切りますね,オーナー。あ,あと音楽もね。
須田:
「ガッツだぜ!」[6]。
関根:
そう,ウルフルズの「ガッツだぜ!」
須田:
あの有名イントロが流れてきて,おぉって思ったらまさかの女性ボーカル。さらに戦闘シーンでも,超有名イントロが流れるんですよ。
関根:
デーデッデーー,デーデッデーー,デ! デ! デ! デ!
須田:
デデデデデデデデ,デデデデデデデデ
2人:
男なんだろ〜♪
須田:
男じゃない! これも女性ヴォーカル!
関根:
まさかの「宇宙刑事ギャバン」[7]のカバー。
須田:
カバーで聴いてもいい曲だなぁと。
関根:
ほんとですね。しかし,残念ながらどちらもリリースされていないんですよ。
須田:
そうなんですか? 配信だけでもリリースすれば人気出そうなんですけどね。
関根:
ですね,ぜひリリースしてください! と,ここで強くお願いしておきます。
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須田:
ぜひ! しかし,多く語りたくなる要素だけでもこれだけパッと出てきてしまうくらい,オマージュが詰め込まれている映画なんですよね。
関根:
ほんと好きなんだな,としか言いようがない。
須田:
もうここまでやるんだったら,オープニングとエンディングも欲しかったです。
関根:
いっそのこと途中でCM入れるとか。
須田:
あれ? ありませんでしたっけ?
関根:
オーナーやばいですね,見えてましたかCM。
須田:
あれぇ? ソーセージのCMと光るパジャマのCM,やってませんでしたっけ?
アクションシーンも何かのオマージュ?
関根:
アクションシーンも少し面白い作りで。
須田:
はいはい。激しいバトルシーンになる直前までは実写で,切り替わってアニメになるというね。
関根:
まあ,予算とかの都合もあったのかもしれませんが,結果面白い演出になっていましたね。
須田:
勝手に予算の都合にしちゃダメですよ,支配人。これは意図された演出です。
関根:
オーナー,失礼しました。ということは,これも何かのオマージュ?
須田:
おそらくですね,アステカイザーですね。
関根:
古い! 「プロレスの星 アステカイザー」[8]ですね。元プロレスラーの主人公が,アステカイザーに変身して敵を倒すあいだだけアニメーションになる特撮TV番組でした。
須田:
そしてその流れとしてのサンダー・ライガー。
関根:
「獣神ライガー」は完全アニメ作品です! サンダー・ライガーさんは番組には出てきません。
須田:
あれ? そうでしたっけ? じゃあアステカイザーがオンリーワンですね。
関根:
ほかのジャンルではあるかもしれませんが,プロレス特撮という意味では,アステカイザーだけかもしれませんね。
須田:
プロレス特撮ってジャンル,すごいですね。
関根:
確か「レインボーマン」[9]もプロレス特撮じゃなかったですか?
須田:
え? インドの山奥で♪ のレインボーマン? 修行して敵と戦うやつですよね。
関根:
そうですそうです。インドの山奥でプロレスの修行をするんですよ。で,敵と戦う。
須田:
そうなんですか。知らなかった。なんかこう,ほら,超能力とかヨガパワーの修行だと思うじゃないですか。でもいい話ですね,山奥でプロレス修行。
関根:
結局プロレス話になってしまう「キネマ51」の悪い癖。
須田:
好きなくせ(癖)に〜。
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青田買い必至の映画かも!?
須田:
監督の日本サブカルチャーへの熱さが全面に出ているこの感じ,結果的にかつての大学生が16ミリ映画[10]で撮った特撮映画へのオマージュにもなっている気がしますね。
関根:
まさに,DAICONフィルム〜GAINAXにつながる「アオイホノオ」の世界ですよ。島本和彦イズムですよ。[11]
須田:
まさに! なのでね。将来の庵野秀明さんになる可能性があるということですよ! 今のうちにチェックしておかないとですよ!
関根:
これを観たか観ないかで。
須田:
そうです。だから2030年代頃になって,「俺あれ観てたし」ってね。
関根:
そうそう。当時はなかなか評価されなくてねー,的な。
須田:
それを言うためにこの作品は観ておくべき大事な映画です。
関根:
イヤな先輩キャラですねそれ。完全に老害ですよー。
須田:
ワハハ。ですね。まぁ,そこまでじゃないにしてもチェックしておくべきということで。この作品,監督1作目ですよね。
関根:
そうです,多分そうです。
須田:
きっとそうですよね。
関根:
もうそういうことで。
須田:
ですね。ということは,やっぱりこれからが腕の見せどころになりますね。
関根:
多分2作目,3作目ぐらいにマーベルかDCから目をつけられて。
須田:
もういきなり超大作任されて,きっと。
2人:
ね!
須田:
そのときに真価が問われますね。何かな,ドラマからスタートですかね。誰がいいかな。
関根:
やっぱり等身大のものじゃないですか。
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須田:
ですね。まだまだゲーム化,映画化されていないキャラやストーリーがいっぱいありますからね。「X-MEN」の次回作でもう監督になっちゃってるかもしれませんよ。
関根:
これから先が楽しみですね。
須田:
考えるに,この映画の舞台となる1999年の時代に日本のアニメとか特撮好きな人って,かなりまれだったと思うんですね。おそらく監督の原体験によるものだと思うんですが。
でも,今の時代って配信もあるので,けっこうガンガンガンガンね,この監督みたいな人がもっと世界中に増えていくんじゃないでしょうかね。
関根:
アニメとか特撮だけじゃなくて,音楽とかそのほかのサブカルチャー全般を手に入れやすくなってますからね。
この監督も楽しみですし,これから出てくる影響下の監督作品も探していきたいですね。
須田:
というわけでね,はい,また次回もお楽しみください。
関根:
急にどうしたんですか? なんの脈略も無く淀川長治さん[12]のモノマネ!?
須田:
はい,皆さん,またお会いしましょう。サヨナラ,サヨナラ,サヨナラ。
関根:
やりとおしたなぁ……。では次回の作品もお楽しみに。
2人:
さようなら〜。
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「Iké Boys イケボーイズ」公式サイト
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(C)Iké Boys イケボーイズ