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Access Accepted第833回:「Subnautica 2」創業メンバーとパブリッシャの深まる確執
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印刷2025/07/21 12:00

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Access Accepted第833回:「Subnautica 2」創業メンバーとパブリッシャの深まる確執

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 「Subnautica 2」を手がけるUnknown Worlds EntertainmentとパブリッシャのKRAFTONを巡り,7月に入ってから状況が急転した。というのも,創業メンバーである3人が突然の形で解雇され,さらにアーリーアクセス版のリリースが2026年に延期されることが発表されたのだ。そして創業メンバーによるSNSでの告白,KRAFTON側からのゲーマーコミュニティ向けの説明,さらには訴状の提出と,事態は法廷の場へと移りつつある。ここでは,現時点で明らかになっている経緯をまとめておこう。


不当解雇を訴える創業メンバーと正当性をアピールするパブリッシャ


 日本時間の7月2日,「PUBG: BATTLEGROUNDS」の成功によってトップパブリッシャとして飛躍したKRAFTONがプレスリリースを発行し,「The Callisto Protocol」の開発元Striking Distance StudiosのCEOも務めるスティーブ・パポウスティス(Steve Papoutsis)氏がUnknown Worlds EntertainmentのCEOに就任することが発表された。

 それと同時に,Unknown Worlds Entertainmentの創業者である,CEOのチャーリー・クリーブランド(Charlie Cleveland)氏,チーフ・テクノロジー・オフィサーのテッド・ジル(Ted Gill)氏,そして社長のマックス・マクガイア(Max McGuire)氏の同日付けでの退職が報告された。このニュースを発端にさまざまなことが起きているのが現状だ。

2024年10月に正式発表された「Subnautica 2」は,パブリッシャと開発元の対立が表面化し,ゲーマーコミュニティを巻き込む騒動の結果,2025年予定だったアーリーアクセス版が2026年へ延期された
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 まずは,KRAFTONとUnknown Worlds Entertainmentの関係をおさらいしよう。KRAFTONは,2021年Unknown Worlds Entertainmentを買収した。1990年代後半からゲーム作りを行ってきた開発チームにとってこの買収は,勝利にも見えた。なぜなら,その買収金額は5億ドルであり,さらに2億5000万ドルが アーンアウト報酬として用意されたからだ。
 アーンアウト報酬は目標を達成していくことで金額が変動するインセンティブで,その90%は創業メンバーに割り当てられていたという。

 ところが,7月5日にクリーブランド氏が「波は千の雫にすぎない?(What is a Wave but a Thousand Drops?)」と題したメッセージを「Reddit」に投稿し,突然の解雇は不当なものであったことをファンに向けて訴えたのだ。

2021年に買収がアナウンスされたときには,KRAFTONによるUnknown Worlds Entertainmentの買収は, “完璧な結婚” なはずだった
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 Redditには,政治や文化など340万にもおよぶトピックについて自由にコメントできるSubredditという “小部屋” があり,「r/subnautica」には原稿執筆時点で79万5000人も登録している。クリーブランド氏のメッセージは,その多くのファンの同情をかい,「Steamのウィッシュリストから外して,悪のパブリッシャに制裁を加えよう」というような過激なコメントが殺到し,「KRAFTONは2026年に期限が来る2億5000万ドルのボーナス支払いを回避するため,リリースを延期して創業者を排除した」といった噂まで広がった。

 これに対して,7月11日にKRAFTONはファンに向けてメッセージを公開。公式サイト(https://krafton.com/en/)を開くと自動的に「1200万人のサブノートの皆様へ」(To Our 12 Million Fellow Subnauts,)というメッセージがポップアップするようになっている。パブリッシャと傘下スタジオの問題について,過去に例を見ない情報開示のスタイルだ。

 辞めさせられた側が不満を口にするのは,よくある話かもしれない。だが,KRAFTONの出したメッセージは,そうした枠を超えていた。そこには,クリーブランド氏らの解雇理由がかなり赤裸々に記されていたのだ。

 上記ニュースでも触れられているとおり,Unknown Worlds Entertainmentが2024年にリリースしたSFストラテジー「Moonbreaker」は「失敗作」だったと断じた。そして,創業メンバーたちに対して「Subnautica 2」の開発に専念するよう求めたものの,それが拒否されたため解雇に至った,というのがKRAFTON側の説明だ。

 そのうえで,アーリーアクセス版についても「現状のままでは出せない」として,2026年への延期は避けられなかったと公表している。

2024年2月にリリースされた「Moonbreaker」は,現時点でもSteamストアページの1200人以上のレビュー評価で「非常に好評」を獲得しているが,売れ行きは芳しくなかったのかKRAFTONは “失敗” と断言した
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 日本時間2025年7月2日,潜水サバイバルACT「Subnautica 2」を開発中のUnknown Worldsの人事について,親会社であるKRAFTONからのアナウンスがあった。CEOのチャーリー・クリーブランド氏を含む創業メンバーの3名が解雇となり,新たなCEOとしてスティーブ・パポウシス氏が就任した。

[2025/07/08 16:17]

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 潜水シム「Subnautica 2」を開発するUnknown Worldsの創業メンバー3人が突然解雇されるという人事と,その開発者のSNSを使った独白を受け,パブリッシャのKRAFTONが内情を説明するニュースレターを公開した。解雇理由について,パブリッシャから赤裸々に語られることは非常に珍しい。

[2025/07/11 14:03]


主張は食い違うも,開発は継続される「Subnautica 2」


以前のUnknown Worldsの会議風景。写真左奥がクリーブランド氏。(画像は公式Xより)
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 しかもKRAFTONの主張によると,クリーブランド氏とジル氏は自分たちの職責を半ば放棄する形で,個人プロジェクトとして制作中のAIを使ったCG映画に熱中しているのが解雇理由であるとまで記されている。これは,クリーブランド氏が先のメッセージで「ゲーム開発に情熱を燃やすためにスケジュールが遅れてしまう」という見解とは大きく食い違っている。

 クリーブランド氏は,すぐさま「アーリーアクセスのリリース準備はできていたし,過去に我々が巨額報酬を独り占めした事実はない」という新しいメッセージをRedditに投稿するとともに,KRAFTONに対して訴訟を起こしたことを発表し,深淵のドラマは泥沼の法廷劇へと発展しつつある。

 さらに奇妙なのは,KRAFTON側の主張を補強するかのように,「2025年5月におけるSubnautica 2のマイルストーン評価:最終的な勧告(Subnautica 2 Milestone Review in May ’25: Final Recommendation)」と題された社内資料の写真が流出したことだ。これは画面に表示されたスライドをスマートフォンで撮影したと見られるもので、開発現場で使われるような専門用語が並んでおり、内容の信憑性は高いと考えられる。

 その資料によれば,2023年第2四半期の時点でKRAFTONと合意されていたアーリーアクセス版の仕様に比べて,2025年5月時点での進捗は大きく後退しており,バイオームの数は4つから2つに,ストーリーは13〜16時間相当の2チャプターから1チャプターへと削減されていた。つまり,当初予定されていたコンテンツのボリュームがほぼ半減していたことになる。そして,この状況を踏まえたうえで「この内容ではリリースには耐えられない」と判断され,開発ロードマップの全面的な見直しが必要であると結論づけられている

クリーブランド氏は,映画制作スタジオ「Abyssal Films」を立ち上げ,現在は本格作品に入る前の試みとして,クリスマスコメディ『Nutmeg & Mistletoe』を製作中だという。画像は「Midjourney」で生成したテスト用アートで,彼は「アーリーアクセスの手法を映画界にも持ち込む」と意気込んでいる
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 この資料で明らかになった開発方針の対立は,創業メンバーの突然の解任という出来事にも納得がいく説明を与えてくれる。KRAFTON側が「現状の内容ではリリースに耐えない」として延期と修正を求めた一方で,クリーブランド氏らは前作と同様に「まず出してから改良すればいい」と主張。両者の溝は埋まらず,最終的に関係が破綻したという構図は,少なくとも表面的には辻褄が合っている。

 クリーブランド氏らは,7月16日付で裁判所に提出された訴状「Fortis Advisors v. Krafton」を公式に公開している。この訴状で彼らは,KRAFTONが「現状でアーリーアクセス版をリリースすれば災害になりかねない」とする一方的な判断のもと,何か月にもわたってリリースを妨害し,その過程で実質的に会社を乗っ取ったと主張している。

 さらに,KRAFTONは創業メンバーの解雇直前に,彼らに対してアーンアウト報酬(ボーナス)の減額交渉を持ちかけていたという。訴状によれば,CTOのジル氏はKRAFTON幹部から,「年内リリースに向けて予定されていた初夏の広報活動を中止させたのは,アーンアウトの支払いを回避するための戦略の一環だった」と直接耳打ちされたとも述べている。

 Bloomberg誌の“暴露系”で知られる記者,ジェイソン・シュレイヤー(Jason Schreier)氏は,7月16日付の同誌記事や,自身のBlueskyアカウントで,事前に入手していた内部情報に基づくコメントを投稿している。

創業メンバーらの訴状には「IPを奪われた」といった主張は含まれておらず,法廷闘争が続いたとしても「Subnautica 2」が無事にリリースされる可能性は高い。とはいえ,穏やかなサバイバルを描くゲームにしては,周辺の展開はずいぶんと物騒だ
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 シュレイヤー氏によれば,創業メンバーの突然の退任に対して,開発チームは当初こそ戸惑いを見せていたものの,「前任者がいなくなったことで,むしろプロジェクトが前に進み始めた」といった声もあり,現在のチームの雰囲気は総じて楽観的だという。

 実際,創業者3人の退社をきっかけにして離反したスタッフは確認されておらず,KRAFTON側も早期に対応を打ち出しており,インセンティブの適用期間延長など,全メンバーを対象とした融和措置を講じている。現時点では,開発チームの分裂や崩壊といった兆候は見られず,今後の焦点は,訴訟がどのような規模へと発展していくかに移りつつある。

 「Subnautica」のようなタイトルは,インディーゲーム出身の作品に多く見られるように,オリジナルの開発メンバーの哲学や,コミュニティとの関係性が色濃く反映された“開発者の顔が見えるゲーム”である。そうした背景があるからこそ,今回の一連の騒動を受けて,ゲーマーコミュニティのあいだでは,「創業メンバーがいなくても新作を楽しみにしている派」と,「創業者抜きでは味気のない“大企業の製品”に堕ちるだけだと見る派」──という分断が生まれつつある。

 とはいえ,創業メンバーが去った今も,「Subnautica 2」の開発はUnknown Worlds Entertainmentの手によって進行しており,プロジェクト自体が頓挫しているわけではない。今後,どのような形で完成に至るのか,引き続き続報には注目しておきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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