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印刷2025/07/28 12:00

業界動向

Access Accepted第834回:BitSummit the 13thで気を吐いていたCatalan Arts Digital Cultureブースを取材

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 7月18日から20日かけて京都で開催された「BitSummit the 13th」において,パビリオンブースとして大きな存在感を示していたのが「Catalan Arts Digital Culture」だった。スペインのなかで独自性が強いことで知られるカタルーニャ地方の州政府機関である,「Catalan Institute for Cultural Companies」が主導する文化振興機構のプログラムの1つだ。同ブースへの取材の模様をお届けする。


ゲームイベントは,プレイヤーと業界関係者へのプロモーションも兼ねる


 ゲームイベントで,国家や自治体が設置したブースを見るのは珍しくはなく,これまでもGame Developers Conferenceやgamescomといったイベントで何度も紹介してきた。東京ゲームショウも例外ではなく,2023年には同じスペインのマドリード州の要人にインタビューしたことがある。今回紹介する「Catalan Arts Digital Culture」もその流れを汲むもので,カタルーニャ地方の州政府機関が主導するプログラムの1つだ。

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 東京ゲームショウ2023のビジネスエリアにて,マドリードを拠点に発足した「Madrid in Game」の関係者に話を聞く機会があった。ゲームデベロッパに対し,開発サポートなどの支援を行い,地域のeスポーツのスポンサーにもなるという大きな計画を実行中の政府系イニシアチブだ。

[2023/10/02 11:00]

 ICECがBitSummitのようなイベントに参加するのは,ビデオゲーム産業に特化したエンターテインメントビジネスを育むためであるが,同時に国際企業の支社設置の投資を呼び込むためでもある。

 ゲーム開発は,プログラミングを行うIT人材とアーティスト,ミュージシャンの融合であり,若い人材に対して地元での就職口を創出することは国や地方自治体にとっても大きな意味がある。そのために,業界関係者が集まる国外のゲームイベントでブースを設置し,プロモーションを行っているのだ。

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BitSummit the 13thでは,カタルーニャ州のゲーム開発事情について解説されるステージイベントも開催されていた
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カタルーニャ,そしてバルセロナってどんな場所?


 カタルーニャ地方の州都は,観光都市として名高いバルセロナだ。バルセロナと聞くと有名なサッカークラブを連想する日本人も多いと思うが,サグラダ・ファミリア大聖堂に代表されるアントニ・ガウディの建築物や,碁盤の目のように計画設計された市街区域,さらには近代美術史に名を刻むジョアン・ミロ,パブロ・ピカソ,サルバドール・ダリを飾る美術館など名所で溢れる文化的な都市である。

 カタルーニャ州の人口は約750万人で,バルセロナには160万人,その都市圏にはおよそ548万人が暮らす。ICECは映画を扱うCatalan Filmsと,そのほかの美術や演劇,音楽,そしてゲーム開発を含むデジタル産業を統括するCatalan Artsの二部門に大別され,4万5000を超える企業や自営業者に16万7900人(2022年第4四半期時点)の人が従事する。新型コロナ感染症初年度のデータではあるものの,2020年には99億ユーロ(約1.7兆円)の営業利益を叩き出している。

バルセロナのシンボルであるサグラダ・ファミリアは,ガウディの逝去100年にあたる2026年に完成する予定であるという。写真は2022年の個人旅行中に筆者が撮影したもので,テレビでも話題になったことがある聖堂の目の前のレンタルアパートにコロナ割引で格安でステイしていた
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 2024年にBoston Consulting Groupが上梓した白書「Decoding Global Talent 2024」によれば,バルセロナは「もっとも働くのに魅力的な都市」部門で,東京を抜いて第8位(※188か国にわたる15万人の外国人労働者に調査)に付けている。

 その人材の供給源は,ヨーロッパ最高学府の1つであるバルセロナ大学を中核とする大学ネットワークであることは間違いないが,近年はほかのヨーロッパ都市と比べても物価が安いことなどの理由から,EUや東欧圏からスペインへの就業者や移住者が多いうえ,言語的な理由から南米諸国からの移住者も多いという。

 観光地であることから,英会話に慣れている国民が多いのも魅力的なところであり,実際に国際的な企業や領事館の数も多い。在住日本人は1800人ほどとのことだが,昨今の日本食ブームも手伝ってか醤油やとんかつソース,インスタントラーメンなど日本の食材を購入できる日系/アジア系スーパーマーケットもいくつか存在する。

 スペインとくにカタルーニャ地方の沿岸部で特筆できるのが,いわゆる「生活の質」の高さだ。今回のイベントブースにいた若い開発者に,バルセロナ近郊で働くメリットを聞いてみたところ,その答えは「ビーチに近い。ボクのオフィスからは5分で行ける」というものだった。
 もっと「リソースへのアクセスがいい」とか「減税措置がある」といった類の返答を期待していたが,どれだけ生活のなかで息抜きできるかも,働くうえで大切な要素の1つなのだろう。

後述するカタルーニャ州のインディー開発者向けインキュベータープログラム,GameBCNの様子。ゲーム産業では新興地域であるが,人口や人材も多いだけにネットワーキングにも適しており,草の根的なオープンな姿勢が伺える
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まだまだ若いが,インディーシーンで気を吐くスペイン産ゲーム


 スペインのゲーム産業というと,筆者のような古いゲーマーなら1990年代後半に「コマンドス」シリーズでステルス戦略シムというサブジャンルを築いたPyro Studiosを思い出す人がいるかもしれない。ほかの有名なところでは,2024年末に廃業したものの,「Deadlight」「RiME」が印象的だったTequila Works,「Moonlighter」「Cataclismo」で気を吐くDigital Sun,そして「IDEA」が話題になったThe Longest Road Gamesなどが思いつく。

 さらに狭めて「バルセロナ発のゲーム」と聞いて,日本のゲーマーコミュニティでどれだけの認知度があるだろうか? 2012年にモバイル向けのF2P型育成ゲーム「Dragon City」の成功で300人を超える従業員を雇用し,2017年にTake-Two Interactive傘下になったSocial Pointについては,以前取材したことがある

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 モンスター育成シミュレーション「Monster Legends」や「Dragon City」などを引っさげて,Facebookゲーム市場で急成長を遂げたスペインのSocial Point。現在までに4作品しかリリースされていないが,ベンチャーキャピタルから100億円もの投資を受けたばかりだ。そんな同社のCEOであるオラシオ・マルトス氏に話をうかがってきた。

[2014/03/25 18:22]

 また,UbisoftやElectronic Arts,BANDAI NAMCO Mobile,Gameloft,Paradox Interactiveといった有名パブリッシャが拠点を置いており,都市全体で6000人ほど雇用を生み出しているという。

 バンダイナムコエンターテインメントの公式ブログ「FanFare」の2021年4月20日付けの記事では,その前年に成長著しいモバイルゲームのマーケティングや開発・パブリッシングを推進する目的でBANDAI NAMCO Mobileが設立され,直江俊彦と渡邊春樹氏が赴任した様子が伝えられている。歴史的な街並みとデジタル化が進んだ都市空間など,当該記事を読めばカタルーニャをヨーロッパにおける支部として位置付ける利点が分かるかもしれない。

 THQ Nordicが年内リリースを予定している「Gothic 1 Remake」の開発を担当するAlkimia Interactiveもバルセロナを拠点とするメーカーだ。さらには「Narita Boy」という日本人ゲーマーには衝撃的なタイトルのメトロイドヴァニアを経て,現在は「Haneda Girl」を開発中のStudio Koba,同じくカタツムリ突撃兵が主人公の「Clid the Snail」を糧に現在は3Dプラットフォームアクション「Duskfade」を開発しているWeird Beluga Studio,さらには「Monster Prom」シリーズのBeautiful Glitchなども同様,バルセロナが拠点であり,インディーシーンもかなりの盛り上がりを見せているようだ。

バルセロナで大きな存在感を示すSocial Pointは,ZyngaとともにTake-Two Interactiveのモバイル部門の一角をなす
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BANDAI NAMCO Mobileの直江俊彦氏(左)と渡邊春樹氏(右)。Bandai Namco Entertainment公式ブログより
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年次のインキュベーションプログラムやゲームイベントも開催


 そうしたカタルーニャ現地のゲームビジネスの発展に大きく寄与しているのが,インキュベーションプログラムの「GameBCN」で,今年ですでに10回目を迎えるという。こちらは,ICECに加えてInstitut de Cultura de Barcelona(ICUB)という別の州政府機関が音頭を取り,上記したSocial Pointがスポンサーとなっている。

 また,メンタリングパートナーとして,iGi(indie Game incubator)という日本国内向けのインキュベーションプログラムを長らく運営してきたマーベラスなどがサポートを行っており,ここに11 bit studios,Akupara Games,HandyGames,HeadUp Games,PQube,Thunderfulといったインディーパブリッシャや,バンダイナムコエンターテインメントやSEGAなどの日本企業,さらにLarian Studiosも参加している。

 その評価によっては最大で20万ユーロの融資をICECから得られるほか,上記企業からのパブリッシング契約やメンタリング,そしてトレーニングなども行われる。これまでに54の開発スタジオが起業し,その半数がパブリッシング契約を提携。これまでに総額680万ユーロ(約11億6000万円)の投資を受けた。今回,筆者がBitSummit the 13thで取材した2Awesome Studioの「Altered Alma」やDust Gamesの「Roombattle」は,このプログラムで選抜されている。

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 2Awesome Studioは,Critical Reflexからリリース予定のメトロイドヴァニアACT「Altered Alma」を,BitSummit the 13thで試遊展示していた。サイバーパンクな近未来のネオ・バルセロナを舞台に,特捜部隊の兵士としてギャングや凶悪犯罪者たちを取り締まり,街のあるべき姿を取り戻すために活動する。

[2025/07/20 17:30]
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 「BitSummit the 13th」のCatalan Arts Digital Cultureブースに,Dust Gamesが開発中の「Roombattle」がプレイアブル出展されていた。武器を鼻に付け,赤い風船をお尻にぶら下げた掃除ロボットを操作して戦うシンブルでカジュアルなゲームだが,思った以上に白熱してしまうこと間違いなしだ。

[2025/07/20 17:40]

 そして今年で8回目を迎えるゲームイベント「BCN Game Fest by Indie Dev Day」が,10月10日から12日までの3日間にわたってバルセロナで開催される予定だ。一般プレイヤーを対象にしたグラスルーツ的なインディーイベントだったIndie Dev Dayが,パブリッシャや投資家を主体にしたGameBCNと合体したもので,昨年は1万5000人もの来場者を迎えるまでに成長した。

 今年は1万7000人を超える参加者が見込まれており,イタリア,ポルトガル,ギリシャ,南フランスなどを含める「南ヨーロッパ」では最大規模になるはずだと,BitSummit the 13thを視察していたイベントディレクターのダニエル・サンチゴサ(Daniel Santigosa)氏は話していた。

 なお,2024年から2027年までの4年間は,日本政府とカタルーニャ州政府の提携により,双方の関係強化計画第5回「プラン・ハポン」を実施しており,企業,観光,大学研究,文化の4つの分野での協力や促進を行っているという。ヨーロッパやスペイン語圏への足掛かりとして,文化都市バルセロナを擁するカタルーニャ州が,今後の日本のゲーム企業の投資先の1つとなるべく注目されていくのかもしれない。

今年で第8回目を迎えるBCN Game Fest by Indie Dev Dayは,「南ヨーロッパ最大のゲームイベント」としてさらなる成長を図る
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Bitsummit the 13thの閉館間際に,Catalan Arts Digital Cultureブースの関係者たちに集合してもらった
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著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。

※次週(8月4日)の「奥谷海人のAccess Accepted」は,筆者取材につき休載します。次回の掲載は8月11日を予定しています。
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