
インタビュー
[インタビュー]「都市伝説解体センター」ハーフアニバーサリー。墓場文庫×集英社ゲームズに聞いた,半年の歩みとインディー的カルチャーの話
呪いの箱や事故物件,異界といったオカルトや都市伝説を調査していくアドベンチャーゲームは,発売10日で10万本を,3か月で30万本を突破。高評価とともにさらに売り上げを伸ばし,りぼんでのマンガ連載やノベライズ,グッズ展開まで広がりを見せ,2025年を代表するインディーゲームのヒット作になった。
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ハーフアニバーサリーを迎える少し前,BitSummit the 13thで本作を手がけた墓場文庫のハフハフ・おでーん氏と,集英社ゲームズの林 真理氏にインタビューを実施した。
リリース半年を祝いつつ,オカルト好きとしてそのあたりをテーマにいろいろお聞きする……つもりだったのが,話は思わぬ方向へ――。
取材の冒頭,筆者が着ていたバンド・New OrderのTシャツに「あれ,お好きですか」と声がかかったことから,3人ともコアなインディー/クラブミュージック好きであることが発覚。そこから共通の話題である音楽を交えたゲームとカルチャーの話にも発展した。
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「都市伝説解体センター」公式サイト
「制限こそが武器になる『都市伝説解体センター』の創り方」聴講レポート詳報版。開発・パブリッシャが目標をひとつにする方法とは[CEDEC 2025]
![「制限こそが武器になる『都市伝説解体センター』の創り方」聴講レポート詳報版。開発・パブリッシャが目標をひとつにする方法とは[CEDEC 2025]](/games/649/G064901/20250728038/TN/033.jpg)
3か月で30万本を売り上げたというインディーゲーム「都市伝説解体センター」。そんな本作を開発するにあたって,「3つの掟」を定めたという。スマッシュヒットとなった本作はどんな環境で生まれたのか,講演で語られた内容を紹介しよう。
4Gamer:
発売からもうすぐ半年ですね(収録は7月)。これまでを振り返ってみていかがでしょう。
ハフハフ・おでーん氏:
リリース前は「受け入れてもらえるのか」と不安でした。
ふたを開けてみたら想像以上に好意的で。今もこうして盛り上がってくれていて,本当にありがたいかぎりです。
4Gamer:
私はオカルトや都市伝説が好きで,開発中のころから注目していました。
同じような人にとっては待望のタイトルだったと思うのですが,不安もあったのですね。
ハフハフ・おでーん氏:
そうですね。オカルトや都市伝説は今でこそマンガやゲーム,映像など幅広い層が楽しむ題材ですが,私が子どものころにそういうものが好きだと言うと「怪しい趣味」と見られたものですから。
そのころの記憶があるので「遊んでくれるのかな」という不安はありましたね(笑)。
4Gamer:
よく分かります(笑)。取り扱いによっては危ういものがあるのは変わらないですが,ただここ数年でそういったコンテンツを嗜む人は増えました。
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林 真理氏:
そうですね。それでいうと本作のファンの方々は本当に丁寧に受け取ってくれていると感じます。
感想がとにかく長文ですごい熱量なんです。「このシーンでこう思った」とか「このキャラのセリフが自分の体験に重なった」とか。読み解きがすごく細やかで,読んでいて胸にくるものがありました。
4Gamer:
変なノリのほうにいかず,真剣に作品と向き合っている熱を感じますね。
林 真理氏:
ネタバレに関してもそうでしたね。
公式でももちろんネタバレ注意のお願いをしていましたが,正直「完全には防げない」と思っていたんです。ところがプレイヤー同士で「この先はクリアした人だけで話そう」とか「未プレイの人の体験を守ろう」とか,自然に線を引いてくれて。ありがたかったですね。
ファンアートも盛り上がってますよね。発売から時間が経っても新しい作品があがるのは嬉しいです。
ハフハフ・おでーん氏:
SNSで毎日新しいものが流れてきて追いきれないくらいですね。
林 真理氏:
たとえば「松田とポメラニアン」みたいな,想定外の広がりもあって(笑)。筋肉質な人がポメラニアンを抱くネットミームと結び付けられて「松田はポメラニアンを連れている」なんていう話が盛り上がっているのですが……。
4Gamer:
公式にそんな絵があったわけではないという(笑)。
でもなんか「それっぽい」と思えてしまう,不特定多数が見た気がすると言っている……みたいな,ちょっと都市伝説の発生的なものも感じます。
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ハフハフ・おでーん氏:
これはファンが自由に広げたものなので,そこにこちらが答えを出しすぎると面白さを奪ってしまうかなと。ここに公式が関わっていって何かに取り込むとかではないと思ってます。なので「楽しく見守る」に徹してます。
林 真理氏:
こうして,ゲームを遊んで終わりじゃなく,そこからまた創作が生まれる。この動きは考えていた以上のものだったので驚きましたね。
4Gamer:
ゲーム自体の話でいうと,アップデートで「チャプターセレクト」機能が追加されました。好きな場面からやり直せるほか,スキップや速度アップ,データベース引き継ぎなど,2周目にありがたい機能です。
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林 真理氏:
実は当初,実装する予定はなかったんですよ(笑)。発売後に話し合って実装したんですよね。
4Gamer:
えっ,そうなんですか。
林 真理氏:
ゲームの規模的に何度も繰り返しプレイすることは想定していなかったんです。ときどき思い出して遊んでもらえるかなというようなイメージで。
ところが「もう一度読み直したい」という要望が非常に多くて。墓場文庫さんからも「これは応えたい」と声をいただき,急遽実装することにしました。
ハフハフ・おでーん氏:
完全にプレイヤーの声がきっかけになりました。。エンジニアは大変でしたが,本人も「やりたい」と言っていて。
林 真理氏:
物語を調べながら遊ぶ人もいれば,絵を描くために特定のシーンを見返したいという人もいたんです。
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4Gamer:
まさにコミュニティと一緒に進化している感じですね。
コミュニティという話でいうとBitSummitですが,今年はいかがでしたか。
林 真理氏:
イベントが2フロアになって2年目でしたが,今年はオフィシャルセレクションの割り振りのバランスが取れていたように感じましたね。
4Gamer:
学生制作や特殊コントローラのブースも線引きなく並んでいて,より雑多な面白さがありました。
林 真理氏:
ええ。大規模になっても整然とした見本市にならず,手作り感とライブ感が残っている。毎年常に考えてなにかを新しくしてくれていますよね。
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4Gamer:
そうですね。取材する側としては,毎回変わるぶん大変なことはあるのですが,手作り感であったり,こういう考えがあってのことだろうと理解できたりして,その力になりたいと思えます。
例えば,今年はアワードが最終日から2日目になって,メディアパートナーとして賞を選考する時間が初日だけになったんです。時間が減ったぶん大変になりましたが,最終日に受賞作のブースにバッジを飾るのであれば,それはやるべきだなって。
林 真理氏:
運営の方々が,出展者のことを考えて毎年いろいろと考えてくれているのだなと感じます。
今は多くのインディーイベントがありますが,長く続いていて,ここまで大きくなっても手作り感みたいなものがあるBitSummitはすごいですね。
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4Gamer:
インディーゲームやイベントって,インディーミュージックやクラブカルチャー的な思考に近い気がするんです。開発はバンドやアーティスト,パブリッシャはレーベルで,それぞれ作り手の独自性,自主性を持ったアーティスト性を大事にする構造が似ていると言いますか。
林 真理氏:
分かります。レコード屋で目当てのものを探しに行ったら,隣に置いてあった知らないレコードをジャケ買いして,新しい音楽に出会う感じにも似ていますね。
ハフハフ・おでーん氏:
私もDJをやっているので,その感覚はよく分かります。
DJが自分の出番を終えてフロアに降りて,お客さんと話したり,次の人のプレイに刺激を受けたりしますよね。インディーゲームのイベントも同じで,ゲームファンとクリエイターもですが,クリエイター同士で「どう作ってるの?」とか「ここ手伝ってくれない?」みたいな交流があって,それも大事なんですよね。
4Gamer:
ライブハウスやフェスのバックステージの雰囲気でもありますね。
この場なら分かってくれるかなという話なんですが,私はインディーとはなんだということを考えるとき,1976年6月のセックス・ピストルズのマンチェスター公演に立ち戻るんです。
その日は40人程度の観客しかいなかったんですが,のちにそのなかからジョイ・ディヴィジョン(ニュー・オーダー)やザ・スミスのようなバンドが出てきて,レーベルのファクトリー・レコードが生まれました。
そういったライブの衝動みたいな一点から広がっていくものがインディーの本質なのかなと……すみませんちょっと話が変な方向に。
林 真理氏:
いえ。分かりますよ。同じようなものを通ってきていらっしゃると(笑)。
ハフハフ・おでーん氏:
それでいうと私たちも,BitSummitにお客さんとして参加して,その熱気に当てられて「自分たちもやろう」と思ったのがきっかけで墓場文庫を始めましたから。やはりそれもインディーゲームやインディーゲームイベントのカルチャーというものかなと感じます。
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4Gamer:
もう少し落ち着いた場所で,そしてもう少し話をまとめてからぜひこういう話をお聞きできればと。そろそろお時間ということで,あらためてリリースからこれまでと,そしてこれからを聞けたらと思います。
ハフハフ・おでーん氏:
ポップアップや作品の漫画化など,短期間で経験できたのはものすごく大きかったです。
ゲームを作っていて,本の帯にコメントを書くなんて想像もしていなかったので,本当に濃い半年でした。
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4Gamer:
ハフハフ・おでーんさんはいまもそういったコンテンツの確認であったり,講演やイベントへの出演だったりでお忙しいかと思いますが,次の作品の構想はすでにあるのでしょうか?
ハフハフ・おでーん氏:
いろいろな選択肢はありますが,ノートでいえばページはまだ真っ白です。
ただ自分の中で共通しているのは,これまでと同じようにゲームと小説/コミックのあいだに位置するようなものを作りたいということですね。
私たちはゲーマーだけに向けるんじゃなくて,どちらかといえばゲームに疲れた人やゲームが苦手な人に向けたものや,音楽や本といったほかのカルチャーからやって来た人たちが自然に入って来られる“入口”になるゲームを作ってきました。これからもそういう場を作っていきたいと考えています。
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林 真理氏:
パブリッシャの立場としては,墓場文庫さんに「次も必ずうちで」という言い方はもちろんしません。もちろんご縁が続いて,また一緒に仕事ができたら嬉しいですが,開発者の自主性を尊重するのが最優先なので,それを前提に縛ることはしません。
先ほどバンドとレーベルという話もありましたが,出版社で例えると漫画家と編集者のようなものだと思うんです。
編集者は漫画家から相談を受けたり,流れを整理したりといったさまざまな形でサポートし,一緒に作品を作り上げていきます。でも,描くのはあくまで漫画家本人です。ゲームのパブリッシャとデベロッパも同じで,クリエイターが自分の発想で走れるように支えるのが役割だと思います。
「都市伝説解体センター」は私たちが預かっている以上,そこから広がる文化や展開を大事にしたい。ゲームだけでなく,マンガやノベライズといった出版的な広がりは私たちの強みです。墓場文庫さんのよいものとなるようコンテンツに力を入れていきたいと思います。
4Gamer:
本日は貴重なお話ありがとうございました。
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「都市伝説解体センター」公式サイト
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