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発売と同時に話題を呼んだ“なんとか33”は,果たしてJRPGの進化形なのか? 「Clair Obscur: Expedition 33」で探る異文化RPGの現在地
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本作を開発したのは,2020年にフランスで設立されたスタジオ・Sandfall Interactive。メンバーの多くはUbisoft出身者で構成されており,本作が同スタジオのデビュー作となる。
発売直後から高い評価とともにヒットを記録し,Steamの同時接続プレイヤー数は14万5000人を突破。発売から33日間での累計販売本数は330万本を超えた※。記事執筆時点の2025年6月中旬現在でも,Steam上のレビューは「すべてのレビュー」が約8万5000件,「最近のレビュー」が約2万5000件となっており,いずれも「圧倒的に好評」を維持している。
※2025年5月26日時点での,パッケージおよびダウンロード版の合計(Game Passを除く)
「Clair Obscur: Expedition 33」全世界累計販売本数が330万本を突破。OSTがBillboardクラシックアルバムチャートで1位を獲得

セガは本日,「Clair Obscur: Expedition 33」の全世界累計販売本数が,発売から33日間で330万本を突破したと発表した。また,本作のリードコンポーザーであるロリエン・テスタード氏が手掛けたオリジナルサウンドトラックも,Billboardクラシックアルバムチャートで1位を獲得している。
あまりにも急激なブームに,ゲームファンも追いつけないくらいだったかもしれない。正式な読み方が浸透する前で,一部のゲーマーから“なんとか33”と呼ばれていたあたりにも,その異例さがにじみ出ていたように思う。
筆者自身も,最初は「なんか急に話題になってるタイトルがあるな」くらいの感覚で,フランスの,しかも聞いたことのないスタジオが“ターン制のJRPG”を作ったという話に,強く興味を引かれたのをよく覚えている。
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このように話題の本作。発売から2か月が経った今でも「あの“なんとか33”,流行ってたけど結局なんだったの?」と感じている人も少なくないのではないだろうか。
そんなExpedition 33……“エクスペディション33”がどんなゲームなのか,まだ触れていない人,気になってはいたけどスルーしていたという人に向けて,実際にプレイして感じたことを紹介していきたい。
出し惜しみせずに先に結論を言ってしまえば――完成度は非常に高い。ただし,意外と人を選ぶタイプの“RPGアクション”(ARPGではない)という印象だった。
なぜそう感じたのか? その理由を,これからじっくりとお伝えしていこうと思う。
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「Clair Obscur: Expedition 33」公式サイト
【目次】
・ゆっくりと,しかし確実に滅亡が迫る世界。今年もまた,人々は遠征隊という名の“決死隊”を死地に送り込む
・複数のルールが絡み合い,リターンに応じたリスクが常に発生する“ターン制×リアルタイム回避バトル”
・キャラの特性を理解し,ピクトスで能力を底上げしよう。スキルのシナジー次第で戦闘はさらに有利になる
・濃厚なRPG体験は,理解と反応で進む“アクションとの融合”から生まれる
※見出しをクリックすると該当の項目に移動します
ゆっくりと,しかし確実に滅亡が迫る世界。今年もまた,人々は遠征隊という名の“決死隊”を死地に送り込む
この世界ではかつて,「崩壊」と呼ばれる致命的な災厄が発生した。その詳細や原因はいまだ判明していないが,それと同時に秩序や常識,さらには物理法則までもが失われ,人々はかつての大都市の一部が海に放り出されて孤立した街・ルミエールでかろうじて生きながらえていた。
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しかし,そんなルミエールにも避けがたい破滅の危機が迫っている。年に一度,ペイントレスと呼ばれる謎の存在が,かつてルミエールもその一部であった大陸にて目覚め,巨大なモノリスに刻まれた“数字”を書き換える──という儀式を行うのだ。
このモノリスの数字は,人々に残された“生存可能な年齢”を示しており,それを超えた年齢に達した者は,文字通りこの世界から「抹消」されてしまう。そして数字のカウントダウンが進むたびに,人類は滅びへと確実に近づいていく。
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今年もまた,モノリスの数字はペイントレスによって書き換えられ,33歳以上の人々が“抹消”されていく。ルミエールで技師(発明家)として働くギュスターヴの元恋人・ソフィーも,その運命から逃れられない一人だ。ふたりは,儀式を見下ろす港で最後のひとときを静かに過ごす。
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だが,ギュスターヴには絶望している暇はない。ペイントレスの儀式を止め,滅亡の“繰り返し”を断ち切るための遠征隊への参加が決まっていたからだ。
年に一度出発するこの遠征隊は,毎年カウントダウンの数に応じた番号が振られている。ギュスターヴも参加する第33遠征隊(Expedition 33)は,すでに出発のときを迎えようとしていた。
“今度こそ”という希望を胸に,大陸への船旅に出る第33遠征隊。だがこれまで任務を達成できた隊はなく,生還した者もほとんどいない。そして実際,ギュスターヴを待ち受けていたのは,彼の想像をはるかに超える困難な運命だった──と,これが本作の物語の始まりである。
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冒頭でも触れたとおり,本作は伝統的なターン制バトルを採用したRPGだ。プレイヤーは,ペイントレスを討つべく出発した第33遠征隊の一員として,常識の通じない驚異に満ちた“大陸”を旅していく。
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戦闘シーンを除けば,基本的に三人称視点の3Dフィールドをリアルタイムで探索するスタイルだ。ジャンプでの移動もあるものの,行ける場所は明確に区分けされており,無理に壁を乗り越えるようなことはできない。
敵とのエンカウントは,イベント戦などを除きシンボルエンカウント式が採用されており,敵に接触すると戦闘が始まる。接触する前にボタンを押して襲撃すれば先制攻撃を仕掛けられるというのも,近年のRPGでおなじみのギミックだ。
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これが通常のフィールド画面。UIでの情報の表示はほとんどない |
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敵はフィールドの至るところにうろついているので,基本は襲撃ボタンを押して戦闘を開始することになる |
本作の魅力は多岐にわたるが,まず印象的なのはフィールドのグラフィックスの美しさだ。
かつて華やかな文化が栄えていたと思われるこの大陸は,崩壊を経て,ほとんどすべての常識が失われた世界へと変貌している。
文明の名残が各地に点在し,巨大な島々や物体が空中に浮遊し,ネヴロンと呼ばれる異形のクリーチャーが跋扈する。さらに,かつての遠征隊員と思われる遺体が今も朽ちることなく残されており,この地の過酷さを物語っている。一言で言えば,ポストアポカリプスの世界観だ。
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一方で,この世界は驚くほど自然が豊かであり,その景観美に圧倒される。生命力にあふれた草木が生い茂る草原,目が覚めるほど鮮やかな森林,雪に覆われた高地,そしてまるで水槽の中に入り込んだかのような,海中が陸地にせり出した不思議な空間まで──その空気感は,まさに幻想的だ。
本作では,個別のフィールドが大きなワールドマップで接続されるという“伝統的”な構造が採用されているが,それぞれのロケーションはまったく異なる雰囲気を持ち,それぞれに印象深い体験が待っている。
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どのフィールドも個性的で,まるで一枚の名画の中を歩いているかのような感覚に包まれる。その理由のひとつは,本作がベル・エポックと呼ばれるフランス文化の一時代をモチーフにした世界観を採用している点だろう。
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芸術史には明るくないのでざっくりな説明にはなってしまうが,このベル・エポックとは,1900年のパリ万博や19世紀の印象派運動などが象徴する時代であり,実際にそれらの要素を意識させる意匠が,フィールドの至る所に散りばめられている。
そんな芸術的な世界を歩いていると,「次はどんなロケーションが待っているのだろう?」と,自然と期待が膨らんでいく。実際,さまざまな場所を訪ねて回る時間そのものが純粋に楽しかった。
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その一方で,本作には(ワールドマップを除いて)ミニマップや地図が表示されない仕様となっている。そもそもマップ自体が存在せず,プレイヤーは自分の感覚と記憶を頼りに進んでいくしかない。
フィールド構造自体はおおむね一本道で,分岐があっても行き止まりか,すぐ合流する短い寄り道程度に収まっている。決して広大とは言えないが,それゆえに細かな景観の変化や地形の差異が印象に残りやすい。
おそらくこれは,単なる技術的制約ではなく,プレイヤーに“目の前の世界をしっかり見る”ことを求める,意図的な設計だろう。
とはいえ,立体的に構成されたマップは意外と複雑で,場所によってはしっかりと道筋を把握しておかないと,迷ってしまうこともあった。実際,筆者も何度か「あれ,ここ通ったっけ?」という状況に陥ったことがある。明暗の表現も美しく,雰囲気づくりとしては抜群なのだが,暗い場所はどうしても視認性が落ちる。プレイする環境によっては,ゲームかモニターの設定で明るさを調整したほうが快適に探索できるだろう。
見事なビジュアルやミニマルなUIは本作の大きな魅力だが,ときにそれがユーザビリティと衝突する場面もある。個人的には,初期設定でオフになっていてもいいので,必要に応じてマップを表示できる機能があれば,より快適に遊べたのではと思う。
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複数のルールが絡み合い,リターンに応じたリスクが常に発生する“ターン制×リアルタイム回避バトル”
ここからは,本作の“キモ”とも言えるバトルシステムについて紹介していこう。
Expedition 33は伝統的なターン制バトルを採用しているが,同時に“パリィゲー”でもある。つまり,プレイヤーはリアルタイムで敵の攻撃タイミングを見極め,正確にさばく必要があるのだ。
「ターン制なのにリアルタイム操作?」と疑問に思う方も多いかもしれない。そこで,ここからはその仕組みを順を追って解説していく。
先ほども軽く触れたように,本作では敵のシンボルに接触するか,先にこちらから襲撃(攻撃)を仕掛けることで戦闘がスタートする。
ターン制バトルは,敵と味方が交互に行動するのではなく,各キャラクターの速度やスキル,バフ / デバフの状態などによって行動順がダイナミックに変化する仕組みだ。そのため,先手を取れれば味方が一方的に攻撃して戦闘を終えられることもあるし,逆に敵に連続で行動されて一気に窮地に陥ることもある。
つまり状況が厳しいときほど,逃げようとして戦闘に巻き込まれるよりも,あえてこちらから仕掛けて先手を取った方が,リスクは小さく済む場合が多い。
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プレイヤーキャラのターンに選べるアクションは,大きく分けて「通常攻撃」「スキル」「アイテム」「エイム」の4つ。本作にはMPのようなリソースは存在せず,スキルの使用には「AP(アクションポイント)」を消費する。
APを補充する手段は限られており,通常攻撃を当てる,敵の攻撃をパリィする,AP回復用のアイテムを使うといった行動で回復できる。
通常攻撃は威力が控えめなぶん,APを稼ぐための手段と割り切って使うのが戦闘の基本的な進め方となるだろう。溜まったAPをうまく活用してスキルを繰り出し,敵の弱点を突いたり,仲間と連携して大ダメージを狙ったりするのが,戦闘をスムーズに進めるポイントだ。
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アイテムは使用回数に制限があり,使うとそのままターンが終わってしまうが,APは消費しない |
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スキル発動時にはQTEが発生する。押すボタンは決まっているが,その代わりにタイミングや押す回数はスキルによって異なる |
スキル発動時にはQTE(クイックタイムイベント)が発生し,成功すれば効果が強化される。失敗すると最低限の効果しか出ず,スキルによってはデメリットが発生する場合もある。
QTEで押すボタンは一種類のみなので,成功させるだけであれば難度は高くない。ただし,ゲージの後半にある“パーフェクトゾーン”を毎回狙うのはやや難しく,タイミングによっては失敗してしまうこともある。
成功と失敗の差は大きいが,成功とパーフェクトの間にはそれほど極端な違いはなく,どこまで精度を求めるかはプレイヤーのスタイル次第といえるだろう。
なお,QTEが苦手なプレイヤー向けに,設定で「自動成功」(QTEをオフ)にもできる。ただしパーフェクト判定は発生しなくなるので,その点に注意が必要だ。
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当然ながら,APを多く消費するスキルほど威力や効果が高くなるため,このAPをどう稼ぎ,どのタイミングで使うかが戦術のカギを握る。
戦況がうまく回ればAPが余るほど溜まることもあるが,逆に溜める余裕がないまま回復すら使えないことも。リソース管理としては,HP以上にシビアに考える必要がある場面は少なくない。
APはバトルごとにリセットされるため,「前の戦闘では余裕だったから今回も大丈夫だろう」と油断していると,思わぬ苦戦を強いられる。そんな戦闘の緊張感もまた,本作の大きな特徴だ。
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「エイム」は,APを消費して敵の特定部位を狙って攻撃するコマンドだ。主に敵の弱点をピンポイントで狙い撃つほか,通常攻撃やスキルが届かない空中の敵(浮遊型)への対処手段としても有効に機能する。
単発の威力は低めだが,特定の敵に対しては弱点への攻撃が非常に効果的で,大きなダメージを与えられることもある。また,後述の「ルミナ」との組み合わせによって,APを使いながら連続攻撃やデバフ付与といった応用的な使い方も可能になる。
敵によっては弱点が存在しない場合や,極端に狙いづらい位置にあることもあるが,「とりあえず一発入れておく」開幕行動としても優秀。ボス級の敵に対して流れを変える一手として機能することもあり,戦闘に多様性を加えるスパイス的存在だ。
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攻撃時には軽いアクション要素がある程度だが,防御時には本格的なリアルタイム操作が求められる。とくに重要なのが「パリィ」だ。
敵にターンが回ると,バフやチャージ動作などを行うこともあるが,大半はプレイヤーに対する直接攻撃。その攻撃を防ぐには,ヒットの直前にタイミングよくボタンを押す必要がある。
連打による緊急回避も可能なときもあるが,本作には“押しっぱなしのガード”という概念が存在しない。なので防御行動は“避ける”か“食らうか”の明快な二択となる。
また防具の装備という要素もなく,ダメージを軽減したい場合はレベルアップ時に防御力へステータスを振るか,後述するピクトスとルミナで防御を高めるものを選ぶか,バフ効果に頼るという形になる。このあたりも,アクションRPGとは異なる独自の設計といえる。
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ゲームの進行に伴って回避手段はいくつか増えていくが,基本は「回避」か「パリィ」のいずれかを選ぶことになる。
どちらも成功すればダメージを受けずに済むが,それぞれ性質が大きく異なる。回避は比較的余裕を持って操作できる反面,成功しても追加の恩恵はほとんどない。一方パリィは,タイミングの受付が非常にシビアなものの,成功すればノーダメージに加えてAPの加算や敵へのカウンター攻撃といった強力なリターンが発生する。
つまり,パリィはリスクが高いぶん,見返りも大きい。リスクとリターンのバランスがしっかり設計されたシステムとなっている。
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……とはいえ,常にパリィを選び続けてハイリスク・ハイリターンな戦いを貫けるかというと,実際のところ,普通のプレイヤーにはかなり厳しい。
敵はフィールドごとに異なるバリエーションで登場し,攻撃モーションやヒットタイミングも変わる。しかも,ひとつの敵が複数の攻撃パターンを持っており,序盤からフェイントやタイミングずらしを仕掛けてくるのだ。
回避やパリィに失敗したときも,それが“早すぎた”のか“遅すぎた”のかが表示されるわけではなく,感覚的に覚えていくしかない。このあたりの不親切さも含めて,本作の防御システムはなかなか骨太だ。
敵の行動前には「◯◯を準備している」といったヒントがメッセージとして表示されるが,それだけでは具体的にどんな動きをしてくるのかは分からない。
とくに初見の敵や新しい攻撃パターンでは,攻撃範囲やタイミングが掴めず,結局は「実際に受けてみる」「避けてみる」を繰り返しながら,自分の体で覚えていくしかない。
最初は回避を選び,ある程度動きが見えてきたらパリィに切り替える。そうした経験に基づいた判断が,このゲームの防御の基本スタイルとなっている。
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ノーガードでゴリ押す戦法も不可能ではないが,本作の敵は総じて攻撃力が高く,物語が進むにつれてデバフを伴う攻撃も増えていくため,被弾のリスクはどんどん重くなる。つまり,ある程度の回避スキルがなければ,ザコ敵にすら苦戦する未来を迎えることになるのだ。
攻撃時のQTEには自動成功の設定が用意されているが,防御(=回避・パリィ)にはそのような補助がないため,プレイヤーのアクションスキルの差が如実に表れる部分だといえる。
こうした設計の結果,本作の戦闘はプレイヤーの集中力を強く求める,まさに“カロリー高め”な体験になっている。毎ターンの攻撃にはQTEがあり,敵のターンではタイミングよく回避やパリィをしなければ,即座に大ダメージを受ける。そのうえ,戦闘のテンポ自体も軽快で,じっくりと長期戦を構えるよりは,リスクを背負って素早く殴り合うような,短期決戦的な手触りが強い。掴みにくさはあるかもしれないが,そのスリルがクセになる。
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一方で,ザコ敵との戦闘でも得られる経験値は多く,キャラクターの強化に必要なリソースも,敵の種類に応じてしっかりドロップする。しっかり戦っていけば,そのぶんキャラクターが着実に育っていく設計だ。
直接的に装備を落とすことはそう多くないが,敵がドロップする強化用アイテムは戦いの数をこなせばかなりの量を集められる。このあたりは戦闘 → 強化 → さらに強い敵に挑めるという,RPGらしい成長サイクルを感じられるだろう。
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キャラの特性を理解し,ピクトスで能力を底上げ。スキルのシナジー次第で戦闘はさらに有利になる
上でも少し触れたように,本作はシンプルなレベル制を採用しており,戦闘によって経験値を得るとレベルが上がり,能力も上昇していく。
ステータスは「生命力」「攻撃力」「素早さ」「防御力」「運」の5種類に分かれており,レベルアップごとに自動で強化されるほか,毎レベル3ポイントのステータスポイントをプレイヤーが自由に割り振ることができる。これにより,好みに合わせたキャラクター育成が可能となっている。
たとえば攻撃力を優先するのか,あるいはライフや防御力を高めて堅実に戦うのか……特定のステータスを上げれば,攻撃力にボーナス補正が掛かる仕組みがあるが,これは装備する武器によって指定されるものが異なるので,成長方針の選択は常にプレイヤーを悩ませる。
さらにレベルアップ時にはスキルポイントも獲得でき,スキルツリーをとおして新たなスキルをアンロックしていくことで,戦術の幅も広がっていく。
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スキルはキャラクターごとに固有のラインナップが用意されている。
たとえば仲間のルネは,炎・氷・回復といった複数属性のスキルをバランスよく使えるのに対し,ギュスターヴは雷属性に特化しており,それぞれの個性に応じた運用が求められる。
さらに各スキルには,特定の条件下で効果が強化される特性が備わっており,威力が上がる,APコストが軽減される,効果範囲が広がるといった追加効果が発動する。そのため,誰にどのスキルを装備させるか,どの順番で行動させるかを調整しながら,どう効率よくシナジーを生み出すかを考える必要がある。
これが本作の醍醐味で,上手くハマったときの爽快感は大きく,戦闘が一気に楽になる感覚がシンプルに楽しい。もちろん,フィールドごとに登場する敵の属性や弱点も異なるため,スキルやパーティ構成をそれに合わせて最適化していく工夫も重要になる。
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アイテムを使えばリセットできるが,やはりどんなスキルを取得していくかは悩む |
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武器には物理以外の属性が設定されてるものもあり,それを装備すると一部のスキルの属性も変わる |
各キャラクターは,スキルの内容だけでなく,戦闘中に作用する固有の特性も持っている。
たとえば先に紹介したルネは,スキルの発動によってAPとは別に「ステイン」というリソースが蓄積され,それを消費することで,スキルに追加効果を発動させることができる。一方ギュスターヴは,「オーバーチャージ」と呼ばれる専用ゲージを持ち,それを最大まで溜めてから特定のスキルを使うことで,敵に大ダメージを与えられる。
このような固有システムは,ほかのキャラクターにもそれぞれ異なる形で用意されており,誰をどう運用するかはパーティ全体の戦術に直結する。最初のうちは把握しきれないかもしれないが,仕組みが理解できて自然と戦闘に組み込めるようになると,戦況を有利に運ぶチャンスが一気に増えていく。
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仲間のなかでも,個人的にとくに気に入っているのがモノコの能力だ。
モノコは人間ではなく「ジェストラル」と呼ばれる大陸に住む種族で,一度パーティに加えた状態で戦闘に勝利すると,なんと敵のネヴロンに変身するスキルを獲得できる。
具体的には,スキル発動時にネヴロンに変身し,それに応じた特殊なスキルが使用可能になる。回復やバフ,全体攻撃など,その効果は変身する敵によって千差万別だ。これにより,戦闘を重ねることでスキルを“集めていく”楽しさが生まれるし,何よりかつて苦戦した敵の姿になって暴れまわれるのが痛快だ。
仲間になった当初は,見た目からして色物ポジションかと思ったが,実際に使ってみると予想以上に楽しく,気がつけば主力の一人となっていた。
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一方で,キャラクターの特性に関係なく,ステータスや戦闘に大きく影響するのが「ピクトス」と呼ばれる装備アイテムの存在だ。
ピクトスとはアクセサリーのようなもので,同時に最大3つまで装着でき,それぞれ固有のステータス上昇効果を持っている。さらに,装備することで「ルミナ」と呼ばれるパッシブスキルが発動し,4回の戦闘に使用することで,そのルミナは全キャラクターで自由に付け替えできるようになる。
これにより,キャラクター固有の能力とは別に,ピクトスによるビルド調整の幅も大きく広がっている。
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ピクトスによるルミナの効果は,キャラクターのビルドに大きな影響を与える。
たとえば「回避巧者」は,パリィではなく回避行動でもAPを獲得できるようになり,「自動堅甲」は戦闘開始時から守備系のバフが自動で付与される。「マーキングショット」なら,エイムによって敵にデバフを与えられるなど,その効果は実に多彩だ。
キャラ単体での強化はもちろん,パーティ全体の戦術に応じて「得意を伸ばす」のか「弱点を補う」のかといったビルド方針を考える余地も大きく,選択肢の幅が広いぶん,プレイヤーの手腕が試されるシステムになっている。
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たとえば攻撃に特化するなら,「自信」や「インバーテッドアフィニティ」といったルミナが強力だ。これらは回復不能やデバフ効果といったデメリットを抱える代わりに,攻撃力を大きく高めてくれる。
安定性を重視するなら,体力が減った際に自動でバフがかかる「緊急防御」や,パリィの逆で“回避できなかったとき”にAPが加算される「エナジャイズペイン」といった選択肢も魅力的だ。
また,戦闘開始時に自爆するというユニークな効果を持つ「自動消滅」は,一見すると扱いづらそうだが,「死の爆弾」と組み合わせることで敵を巻き込んで倒すといった使いかたがある。さらには,特定の味方バフのトリガーとして活用するなど,意外な使い道も見えてくる。
このように,限られたルミナポイントをどう割り振るかは悩ましく,いつでも付け替えが可能とはいえ,ビルドの試行錯誤には深い中毒性があるのだ。
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各フィールドには,かつての遠征隊が残した「旗」が点在しており,これはチェックポイントとして機能するだけでなく,ファストトラベルの発着地点にもなっている。
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この旗で休憩をとることで,HPの回復はもちろん,回復アイテムの補充も行なえるほか,レベルアップに伴うステータス強化やスキルの取得なども可能だ。要するに,探索中の簡易的な拠点として,戦闘や成長の節目における重要な役割を担っている。
さらにこの拠点には,大きな特徴がある。それは,休憩によってHPを回復すると,それ以前に倒した敵が即座に復活(リスポーン)してしまうという点だ。これを目にしたとき,筆者の脳裏には「篝火」のような,いわゆる“ソウルライク”なゲームの仕組みが思い浮かんだ。
商人が存在するにもかかわらず,回復アイテムは休憩によってしか補充できないという点も含めて,本作にはソウルライク作品からの影響が色濃く感じられる。回復行動そのものが,状況次第では“対価”を伴うというわけだ。
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とはいえ本作は“死にゲー”ではない。全滅すれば即ゲームオーバーにはなるが,基本的にはその場で仕切り直しとなる。
復帰は直前のオートセーブから再開されるが,このオートセーブは拠点の利用時だけでなく,通常戦闘の終了やアイテム取得時などにも自動で行われるため,大きく巻き戻されることはない。もちろん,いわゆるデスペナルティのような要素も存在しない。
なお,特定のキャラのみが戦闘不能になった場合は,戦闘終了後に自動的にHP1の状態で復活する。
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さらに言えば,前述のように本作は1回の戦闘で得られる経験値が多めに設定されているため,レベル上げ(とピクトスの習熟)は「戦闘に勝利 → 拠点で休息 → 即座に再戦」の流れを繰り返すことでかなり効率よく進められるだろう。
また,敵シンボルは一度こちらを視認すると比較的しつこく追ってくるが,探知範囲そのものは広くないため,見つからずにやり過ごすこともさほど難しくはない。
スルーしても大きなデメリットはなく,戦いたいときに戦い,避けたいときは避けるというプレイスタイルが成立している点も,ストレスの少ない設計と言えるだろう。
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興味深いのが,本作には手動セーブの機能が存在しないこと。
セーブはすべてオートセーブに限定されており,(セーブデータそのものをバックアップするような手段を除けば)基本的に特定のタイミングに巻き戻ったり,やり直したりすることはできない。プレイヤーは,常に“その瞬間”の結果を受け入れながら,前に進み続けることになる。
もちろん,これは技術的な制約ではなく,あくまで意図された仕様だろう。“選択に責任が生じること”や“世界が不可逆であること”といった緊張感をも含めて,このゲーム体験は設計されているのだ。
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濃厚なRPG体験は,理解と反応で進む“アクションとの融合”から生まれる
パリィや回避といったアクション要素が目を引く一方で,キャラクターごとに異なる戦闘ルールや,幅広いビルドの選択肢が用意されていることが理解できただろうか。
このように本作は,広大なオープンワールドは存在しないぶん,戦闘システムに相当のリソースが注がれており,その作り込みの緻密さが際立っている。それだけに覚えることも多く,決して取っつきやすいとは言いがたいが,ひとたび理解できれば,ゲーマーにとってはむしろ“ご褒美”のような手応えが味わえるはずだ。
本作は,独自の世界観と,序盤からプレイヤーを引き込む怒濤の展開によって,ストーリーや演出面に力が入っていることがすぐに伝わってくる。
だが,それと同等か,あるいはそれ以上に注力されているのがバトル周りの要素だ。キャラクターの成長に加え,ピクトスを用いたビルド要素,そしてキャラごとの固有スキルなど,やや複雑ながらも理解すれば楽しさが広がる仕組みが用意されている。
プレイヤーに“ちゃんと理解されること”が前提にある,少々入りにくい作りだとは感じるが,一度その構造を把握すれば,戦略性とカスタマイズの幅広さに思わず夢中になるはずだ。
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また,本作の防御には,常にリアルタイム操作が求められるという特徴がある。
基本的には「敵の攻撃を覚えて対処する」ことが前提となっており,特に初見では避けようのない攻撃も多いため,プレイヤーは一定の間隔で“攻撃を受けて覚える”というサイクルを繰り返すことになる。
これはむしろRPGというより,アクションゲームやシューティングゲームに近い作法と言えるだろう。結果として,プレイ中は常に一定の集中力が求められる。
さらに,アクションやシューターであれば。自キャラを自由に動かすことで「敵の攻撃範囲の外で様子を見る」といった手段がとれるが,ターンベースの本作では,戦闘に入った時点で“真正面から受けて立つ”しかない。逃走を選ばない限り,必ず攻撃を受ける前提で立ち回る必要があるのだ。
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一般にアクションRPGといえば,リアルタイムのアクションバトルに,RPG的な成長要素や物語を組み合わせたスタイルを指すことが多い。しかし本作の場合はその逆とも言える,ベースとなるのはあくまでターン制のRPGで,戦闘の中に“タイミング”や“反応”といったアクション的な要素が組み込まれているゲームという印象だ。
たとえばバトル中には,防御や回避の場面でQTE(クイックタイムイベント)的な操作が求められることが多い。しかもそれは,単なる“おまけ”ではなく,ゲームの進行に不可欠な重要要素として機能している。QTEの自動化も可能だが,手動操作との差は明確であり,実質的にはプレイヤー自身のアクションスキルが問われる構造だ。
そうした構成から,本作はアクションRPGというより,むしろ“RPGアクション”と呼んだほうがその本質をよく表しているように感じられる。
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このようにチャレンジングなゲームであるだけに,気になる部分もいくつかあった。
ひとつは,敵の攻撃パターンを繰り返し観察してクセを掴む必要があり,直感的に動きを読むことが求められる場面も多い点。じっくりと読み合いを楽しみたいRPGファンにとっては,プレイスタイルとの相性で好みが分かれるかもしれない。
実際,動きをうまく読めずにダメージを受け続けたり,集中力が切れたタイミングで連続ヒットを食らってしまうこともあり,ストレスを感じる瞬間は少なくなかった(とくに序盤では,あっさり全滅することも珍しくない)。
また,最初のほうでフィールドの視認性の話をしたが,それに関するものでもう一つ。各地のフィールドには初見では見つけにくいアイテムや,高報酬ながら現時点では倒しづらい強敵が配置されている一方,ワールドマップ上ではファストトラベルが使えない。そのため,過去に訪れた場所に戻るには少し手間がかかる。迷いやすい地形も相まって探索のテンポが悪くなりがちなのは,正直気になったポイントだ。
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といった細かい部分で気になるところはあるが,全体的な完成度がかなり高いということはあらためて伝えておきたい。とくにバトルを重視するゲーマーにとっては,大いに楽しめる作品だと思う。
それは,アクションゲームでパリィやジャスト回避を得意とするユーザーはもちろんのこと,そこまでアクションが得意でなくても,パーティのビルド構成やピクトス,ルミナの付け替えによって十分にカバーできる設計になっているからだ。
回避の腕に自信があるなら,リスクを背負って攻撃特化の構成にしてもいいし,(筆者のように)回避の成功率が今ひとつであれば,それに応じて防御寄りの構成にすればいい。このように選択肢が広く用意されているため,“自分なりの攻略”を見つけながら遊ぶスタイルが自然と生まれてくるのだ。
前半でも触れたように,本作のビジュアルはとにかく美しく,ストーリーとも呼応するように,理不尽さと混沌を孕んだ世界観が広がっている。そうした世界を旅する体験は,一見の価値があるのは間違いない。
物語の構造としては,少人数の仲間たちとともに世界の危機に立ち向かうという,どこか古典的なJRPGの要素も感じられる。一方で展開は,冒頭からプレイヤーに巨大な“理不尽”が叩きつけられ,少しずつ状況が明らかになっていくという構成だ。
いわゆる王道の流れとはやや異なるが,それだけに先が読めない展開の連続で,独特の緊張感と引力を持っている。
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プレイする前は,なんとなく「これは海外からのJRPGへの進化的なアンサーなのかもしれない」と思っていたが,実際に遊んでみると,そのイメージとは大きく異なるゲームであることが分かった。本作はJRPGの再解釈というものではなく,JRPG的なフォーマットに異文化から切り込んだゲームとして捉えるべき作品だと思う。
それは,先ほど“RPGアクション”という耳慣れないであろう単語で説明したシステムや,崩壊した状態で描かれながらも感じられる異国情緒にもつながっているのだろう。逆に,本作に広く一般的にイメージされる“JPRG”が直接的に進化したような姿を期待すると,恐らく肩すかしを食らうのではなかろうか。
本作は単なる“JRPGな作品”にとどまらず,独自の設計と試みが随所に感じられる意欲作であることは間違いない。アクション性を組み込んだターン制バトルや,世界観と演出の重なり方などは,プレイする中で確かに心をつかまれる瞬間がある。
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このようにExpedition 33は,広く万人にオススメできるRPGではないかもしれない。だが,本作の尖った部分に少しでも惹かれるものを感じた人にはぜひプレイしてみてほしい。その惹かれた点が,戦略と反射神経が交差するスリリングなバトルでも,美しいグラフィックスで描かれる幻想的なフィールドでも,あるいはフランス文化を下敷きにした謎めいた世界観でもかまわない。どこか一つでも刺さる要素があれば,その体験はきっと,想像以上の満足感を与えてくれるはずだ。
もし少しでも心が動いたなら,あなたも遠征隊に志願し,この異国情緒あふれるベル・エポックの世界に,ぜひ足を踏み入れてみてほしい。
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「Clair Obscur: Expedition 33」公式サイト
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- PC:Clair Obscur: Expedition 33
- PC
- RPG
- CERO Z:18歳以上のみ対象
- Kepler Interactive
- Sandfall Interactive
- プレイ人数:1人
- 欧州
- PS5:Clair Obscur: Expedition 33
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- Xbox Series X|S:Clair Obscur: Expedition 33
- Xbox Series X|S
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- ライター:津雲回転

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