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西川善司の3DGE:AI高画質化技術「FSR Redstone」とニューラルリンダリング技術に対するAMDの取り組み
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そこで,Hall氏へのインタビューで得られたことをまとめつつ,AMDのニューラルレンダリング技術についての取り組みをレポートしたい。
RDNA 4世代GPU向けの新高画質化技術「FSR Redstone」が2025年後半に登場。AIベースでレイトレーシングや超解像を処理する

2025年5月21日,AMDは,COMPUTEX 2025に合わせてプレスカンファレンスを開催した。本稿では,そこで発表となった内容から,ゲーマーの関心が高そうなRDNA 4ベースのGPU向けに開発中の高画質化技術「FSR Redstone」について紹介しよう。
初報の記事でも触れたとおり,FSR Redstoneの名は開発コードネームであり,正式な名称は,本稿執筆時点でも未定である。最終的には「FidelityFX Super Resolution 5」(FSR 5)か,あるいは4.Xになるとも言われている。
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FSR Redstoneには,以下に示す新機能が実装される予定だ。
- Neural Radiance Caching
- Machine Learning Ray Regeneration
- Machine Learning Super Resolution
- Machine Learning Frame Generation
これらの機能は,NVIDIA独自の超解像&フレーム生成技術「DLSS4」に含まれる技術に,ほぼ1対1で対応する対抗技術である。
- NVIDIAの技術と完全に同名
- Reservoir-based SpatioTemporal Importance Resampling(ReSTIR)
- AIベースの超解像技術
- AIベースのフレーム生成技術
初報の記事の最後で筆者は,「FSR Redstoneは,業界が進めているといわれるニューラルレンダリング技術の標準化における,ひとつのサンプルのようなものになるのか」とAMD担当者に質問したところ,「違う」と否定された。また,「ニューラルレンダリング技術の標準化に関して,MicrosoftやそのほかのGPUメーカーとの協議は進んでいるのか」という質問にも,AMDは消極的な姿勢を示していた。
その一方で,2025年6月2日にMicrosoftは,DirectXにおけるニューラルレンダリング技術への取り組みについてのブログ記事「D3D12
この中でAMDは,「Cooperative Vectorのドライバーサポートは,2025年夏に提供する予定」と述べており,COMPUTEX 2025時の回答とは異なる方針を示していた。これはどういうことだろうか。
FSR Redstoneは,GPU内のAIアクセラレータを活用していない
まず,Hall氏は,開口一番に驚かされることを述べた。
FSR Redstoneは,実行時に,GPUにAIアクセラレーションの機能がなくても動作する実装になっていると言うのだ。機械学習(≒AI)ベースの技術なのに,GPU側のAIアクセラレーションが必要ないという。
Chris Hall氏(以下,Hall氏):
FSR Redstoneは,ROCmの研究プロジェクトである「AMD ML2CODE」(Machine Learning to Code)を活用して開発しています。ニューラルレンダリング技術のコア部分については,ML2CODEを活用することにより,最適化したCompute Shaderコードへと変換しているのです。だから,FSR Redstoneのニューラルレンダリングコアは,他社製GPUでも実行できるのです。
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補足が必要だろう。ML2CODEとは,AMDが進めているGPUコンピューティング(GPGPU)プラットフォーム「ROCm 6.1」以降に含まれるものだ。学習済みモデルのAIコアを,ランタイム実行するのではなく,既存のCompute Shaderコードとして最適化したうえで,ネイティブ実行できるようにするものである。
このような構造にすることで,既存のゲームグラフィックスパイプラインからの呼び出しオーバーヘッドを皆無にでき,高度に連携して活用できるメリットが生まれるのだ。
Hall氏:
ROCmは,AMD GPU上で汎用的なAIコア開発と,その動作を可能にするGPUコンピューティングプラットフォームです。AMD以外のハードウェアでも動作するように,業界標準の包括的なサポートに重点を置いて開発したものになります。
一方,ML2CODEは,AMDが開発した社内専用フレームワークです(※筆者注:つまり,直近で一般公開の予定はないという意味)。最大のメリットは,FSR RedstoneのようなML2CODEで制作したものを,DirectXやVulkanのグラフィックスパイプラインに,最小限の遅延でシームレスに直接統合できる点にあります。
私たちは,3Dグラフィックス技術とAI技術の統合と展開において,少なくとも現時点では,ML2CODEソリューションが最良の手段と考えています。
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Hall氏:
AMDでは,AI関連の多くの革新的な新技術開発プロセスに,HIPを活用しています。そしてML2CODEは,Vulkanのシェーダ言語である「GLSL」や,DirectXの「HLSL」といった最も一般的に使用されているグラフィックスレンダリングパイプラインとの統合を目的としているのです。
確度の高い推測だが,FSR Redstoneで採用する各種AI関連機能のAIコア部分は,HIPコードで開発している可能性が高い。というのもHIPコードは,各世代のRadeon GPUに最適化されたコードを出力できるし,こうしたアーキテクチャの恩恵で,AMD以外のGPUでも動作が可能だからだ。
意味があるかどうかはともかく,HIPコードをCUDAに変換してNVIDIAのコンパイラでビルドすれば,NVIDIA GPUで動作させられるだろう。
それでは,Microsoftが進めるDirectXのCooperative Vectorとの整合性はどうなっているのだろうか。
Hall氏:
Cooperative Vectorは,DirectXのプログラミングモデルになります。プログラマブルシェーダユニットが,別のアクセラレータを使って計算を行う方法を提供するフレームワークです。言い換えれば,シェーダプログラムから,GPU内のAIアクセラレータなどを活用できるようにするフレームワークです。これは,あらゆるAIのスタイルを実装するためには,素晴らしいアプローチではあります。
しかし,現状,Cooperative Vectorの仕組みに特化したアーキテクチャのGPUでないと,大きな遅延が発生する可能性があります。我々は,Cooperative Vectorのサポートにも,積極的に取り組んでいるのは事実です。
FSR Redstoneが,DirectXのCooperative Vectorと無関係な取り組みで開発を進めているのは,シンプルに,まだ,Microsoft側の取り組みが,まだまだ初期段階であるのが大きな理由のひとつだ。
そのうえで,Hall氏にインタビューしたことで,現状のゲームグラフィックスから活用するニューラルレンダリング技術については,現行GPUから使いやすいCompute Shaderベースで実行できるアプローチの方が最適だ,とAMDが判断したからという理由も見えてきたと思う。
もちろん,現行のRadeon GPUは,RDNA 4ベースであっても,GeForce RTX 50シリーズのようなニューラルレンダリング技術前提の設計になっていないというのも,理由のひとつである気もするが。
Hall氏:
現状のAMDは,Cooperative Vectorへの対応を進めつつ,ゲームグラフィックスに組み込みやすいニューラルレンダリング技術については,ML2CODEベース,つまり汎用性が高く,NVIDIA製GPUを含む多くの現行GPUで最適なパフォーマンスを発揮できるCompute Shaderアプローチを採用したということです。
それと,技術的には,こうした2種類のアプローチは,将来合流するというか,統合されることはあるでしょう。いつになるかは私にも分かりませんが。
というわけで,今回のインタビューを経て,COMPUTEX 2025で疑問が残ったAMDのニューラルレンダリング技術への取り組みと,FSR Redstoneの姿にまつわる謎はほぼ解明されたように思う。
最後に,NVIDIAとIntelのCooperative Vectorへの対応状況についても紹介しておこう。
まずNVIDIAだが,すべてのGeForce RTX GPUに対応した開発者向けドライバを提供済みだ。またIntelも,「Intel Arc B」シリーズおよび「Core Ultra Series 2」の統合型GPU用の開発者向けプレビュードライバが公開済みである。
これを見た感じでは,ゲーム開発者が,GPUベンダーに依存しないニューラルレンダリング技術を,商用ゲーム開発に利用できるようになるまでは,あともう少しといった感じだろうか。
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