
インタビュー
[インタビュー]たった1人で作り上げたサバイバル・クラフト&ライフシム「Dinkum」,古くから日本のゲームを愛する開発者が夢を実現するまで
作者であるJames Bendon氏が暮らすオーストラリアをモチーフとした世界を探索・開拓していくサバイバル・クラフト系ゲームとして全世界100万本のセールスを突破し,日本でも人気を博している。
また,2025年2月19日にはKRAFTONが「Dinkum」のグローバルパブリッシング契約を締結,同時にIP全体のパブリッシング権取得もアナウンスしており,「Dinkum」は大きな飛躍を迎えようとしている。
このようなタイトルを,たった1人で完成にまで導いたJames Bendon氏にインタビューをする機会が得られた。何を夢見て開発に着手し,夢の実現のためにこれまでどんな苦労があったのか,そしてNintendo Switch版の発売について,たっぷりと聞いてみた。日本でソロ・クリエイターを目指す(あるいはソロ・クリエイターとして活動している)人にも,なんらかの参考になれば幸いだ。
![]() |
「Dinkum」公式サイト
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。さっそくですが,「Dinkum」を作る最初のモチベーションが何だったのかを教えてください。
Bendon氏:
子供の頃から,ゲームを遊ぶだけでなく,自分でゲームを作りたいという思いはありました。実際,Flashゲームなんかも作っていたんですよ。それでゲーム開発の楽しさを学びました。
そこからは動画などを通じてUnityを学び,今に至っています。
4Gamer:
「Dinkum」はかなり規模が大きいゲームですが,これはBendon氏にとって初めての本格的なゲームと考えていいのでしょうか。
Bendon氏:
そうですね,プロトタイプから数えると10年くらいかけて,ここまでたどり着きました。実を言えばプロトタイプ自体は「Dinkum」以前にもいくつか作ったことがありますが,世界に向けて公開したのはこの作品が初めてということになります。
![]() |
4Gamer:
当初,オフラインのシングルプレイヤーゲームだったと記憶しています。アーリーアクセスの途中でマルチプレイ対応が始まったと思いますが,ネットワークコードなどもご自身で書かれたのでしょうか。
Bendon氏:
そのとおりです。プラグインなども使っていますが,基本的に全部自分で勉強して実装しています。
4Gamer:
それは本当にすごい……!
Switch版の発売も予定されていますが,ポーティング(移植作業)はいかがですか。
Bendon氏:
Switchへのポーティングは,KRAFTONと5minlabのすばらしいスタッフに手伝ってもらっています。最適化も十分に行われており,PC版から省かれたり,できなくなっていたりする要素はありません。
ただ,Switchの画面は決して大きなものではありませんので,少し文字が読みにくいといった点が気になる方はいるかもしれません。こればかりはご容赦いただければありがたいです。
あと,PCとSwitch間のクロスプレイは対応していません。またアップデートスケジュールに若干の違いが生まれる可能性がありますが,アップデートの内容をプラットフォームで分けることは考えていません。同時にアップデートしていく体制に,段階的に移行していく予定です。
![]() |
「オーストラリアらしさ」を詰め込んだバイオーム
4Gamer:
さて,作品について聞いていきたいと思います。
過去のインタビューを拝聴したのですが,「Dinkum」をいわゆるCozy Gameに分類することにはためらいがある,という発言がありました。
自分もこの作品はCozy Gameというにはちょっと違うなと感じたのですが,それがなぜなのかをうまく言語化できません。
※Cozy Game……癒しや安心感を重視し,のんびり自分のペースで楽しめるゲームの総称。
Bendon氏:
私はカートゥーン・スタイルが好きなので,「Dinkum」のアートスタイルにはカートゥーンを選んでいます。このアートスタイルを選んだゲームは,Cozy Gameだと分類されることが多いように思いますね(苦笑)。
とはいえ,「Dinkum」を遊んだプレイヤーが「Cozy Gameだ」と感じたのであれば,それはそれで正しいとも思っています。
![]() |
4Gamer:
「Dinkum」は「どうぶつの森」シリーズと比較されることが多いと思います。また,このジャンルには「Stardew Valley」をはじめ,たくさんの巨人が存在します。これらの作品に対して,「Dinkum」はここが違うという点を教えてください。
Bendon氏:
「Dinkum」はサバイバル要素が強いゲームで,プレイヤーはどんどん危険な外の世界に飛び込んでいく必要もあります。そういった緊張感は,「Dinkum」の大きな特徴であると考えています。
また,広いマップを探索し,開拓し,直接地形を変化させ,プレイヤーの好きなように飾っていくというところも,「Dinkum」の特徴的な体験だろうと思います。
イメージとしては,サバイバル・クラフト系のゲームとして始まり,徐々にライフシムに変わっていく……ということになるでしょうか。
4Gamer:
プレイヤーを待ち受ける世界のモデルは,Bendon氏がお住まいのオーストラリアです。しかしオーストラリアはとても広く,そのすべてをゲームに盛り込むのは困難だったと思います。
Bendon氏:
オーストラリア北部は熱帯,南部は温帯であり,環境は多様です。この特性を反映させるため,カンガルーやコアラといった代表的な動物を登場させるのはもちろん,昆虫や魚も実際にオーストラリアにいるものを登場させました。
当然ながら「これが完全に正確なオーストラリアだ」というわけではありませんが,できる限りの環境を盛り込んだつもりです。
また音楽も,オーストラリアに長期滞在したイギリスの作曲家とコラボして,オーストラリアならではの音楽を感じられるようにしてもらいました。
![]() |
![]() |
一人でゲームを作る,ということ
4Gamer:
ここからはソロのインディーゲーム・クリエイターとしての,Bendon氏にお話をうかがっていきたいと思います。
そもそも,どんな時代であっても「1人でゲームを作って完成させる」ことは,とても大変です。それが「Dinkum」のような大作ともなれば,なおさらでしょう。
とくに苦労した点としては,何がありますか。
Bendon氏:
そうですね,自分の場合は3Dモデルのテクスチャ作成に,とても苦労しています。UV展開にはいまだに苦労させられますね。正直,つらいです。
4Gamer:
それは,おおむね全人類にとってつらいやつですね……。
Bendon氏:
それからモデルにアニメーションをつける作業も,とても大変です。とはいえ,この作業は好きなので,苦労はしますが楽しいですね。
![]() |
4Gamer:
「ゲームを作る」ことには,長い時間が必要です。必然的にゲーム制作と生活をどう両立させるのか……もっとはっきり言えば,「どうやって生活費を稼ぎながらゲームを作り続けるのか」という点が問題になってきます。
この問題には,どう立ち向かわれましたか。
Bendon氏:
自分の場合,とても幸運だったのは,当時のパートナー……今の妻がゲーム制作を全面的に支持してくれたことがあります。
そのうえで新聞配達などパートタイムの仕事で生活費を稼ぎ,「賢く食べる」,つまりうまく食費を切り詰めるといった工夫もしました。なんにしても,出費を抑えるのは大事だと感じますね。
4Gamer:
1人で作品を作っているうち,途中で放りだしたくなるようなことはありましたか。
Bendon氏:
ありました。こんなもの作ったって誰も遊びっこない,といった思いに取りつかれることもありましたね。これは1人でゲームを作る開発者の,最もつらいところかもしれません。
ですが,自分の場合は妻が支えてくれました。これは本当に大きなサポートです。
4Gamer:
今は大きなチームの一員として,「Dinkum」の制作をリードしています。チームで作るようになって,何が変わりましたか。
Bendon氏:
当たり前のことですが,開発スタッフとコミュニケーションを取ることの重要性と,適切なコミュニケーションの取り方を学ぶ必要がありました。これは思うより,ずっと大変なことでした。
情報を共有するというのは,言葉のうえでは簡単ですが,そのための習慣や技術といった学ぶべきことがたくさんあります。
進捗管理も重要です。1人で作っていると,良くも悪くもデッドラインというものがありませんからね。「自分はこうしたい」というだけでは駄目なのだというのは,自分にとって大きな学びです。
![]() |
4Gamer:
パブリッシャとしてKRAFTONを得られましたが,彼らとの仕事はいかがですか。
Bendon氏:
とても助かっています。
ゲームを売るという仕事は,決して簡単ではありません。プロモーションだけではなく,本当に,本当に,驚くほどたくさんの仕事と作業が積み重なっています。
でも自分は,そうしたいわゆる「ビジネスの話」があまり好きではないし,得意でもありません。これらを全部やってくれるのは,ただひたすらに嬉しいですね。自分はただ,ゲームを作ることだけがしたいんです。
古くからの任天堂ゲーマーとしてのBendon氏
4Gamer:
現代においてはファンのコミュニティをどう形成し,それとどう向き合っていくかもゲーム開発には重要です。Bendon氏にとって,とくに思い出深いフィードバックとその対応があれば教えてください。
Bendon氏:
そうですね,たくさんありますが……あるオブジェクトを移動できるようにしてほしいという要望を受けて,移動できるようなUIを足すのではなく,ゲーム要素を足すことで解決したことがあります。
コミュニティの要望は多岐にわたりますが,簡単に対応できるものもあれば,「Dinkum」というゲームのデザインに噛み合わないものもありました。最近は公式Discordサーバに参加しているファンからの要望や感想を中心にチェックしています。
4Gamer:
日本のファンに対しては,どのような感想をお持ちですか。
Bendon氏:
たくさんの日本のプレイヤーが遊んでいるのを見て,自分も楽しんでいます。それからVTuberの皆さんがプレイしているのも見ていますよ。
彼ら,彼女らのリアクションはこちらの意図どおりに驚いてくれたり,意外なところで喜んでくれたりと,ゲームを作った人間としてとても面白いです。
4Gamer:
日本のゲーマーはSteamのレビューに低評価をつけがち,という統計が出ましたが,これについては?
Bendon氏:
開発者としては,低評価がつくと非常にガックリくるものです。とはいえ,一つひとつの評価に一喜一憂していても仕方ないとも思っています。
また,最近ではパブリッシャがそういった評価を統合して,統計的に何がどう課題になっているかを提示してくれますので,とても助かっています。
4Gamer:
Steamのレビューでは非常に短い高評価レビュー,例えば「面白い」「すばらしい」「良いゲーム」といった一言が書かれたものも多いですが,これらはどのように感じられますか。
Bendon氏:
素直に嬉しいですね。FunnyやHelpfulがつくようなレビューでなくともまったく構わないと思いますし,自分は助けになっています。
Steamはプレイヤーが中心のプラットフォームでもあります。だからこそ,プレイヤーが良いと感じたことを「良い」と記録していくのは,絶対に良いことだと感じています。
4Gamer:
時間が迫ってきましたので最後の質問になりますが,Bendon氏はゲームキューブ版「どうぶつの森」のヘビープレイヤーだったとうかがっています。
そのほか,同時代の好きだったゲームはありますか。NINTENDO 64の作品でも構いません。
Bendon氏:
難しい質問ですね!
やはり,何と言ってもNintendo 64の「ゼルダの伝説 ムジュラの仮面」でしょうか。自分にとって最高のゲームです。
あとは「ファイナルファンタジー・クリスタルクロニクル」も大好きです。最近では「スプラトゥーン2」「スプラトゥーン3」が好きで,今もオンライン対戦を続けています。
ほかにも,本当にたくさんのゲームを遊んできました。子供の頃はゲームが魔法のように思えたのを,今でも覚えています。
4Gamer:
ありがとうございます。では本当に最後に,日本のファンにメッセージをお願いします。
Bendon氏:
今後も「Dinkum」と「Dinkum Together」を通じて,さまざまなプラットフォームで喜びをお届けしたいと思います。また,ファンの皆さんには心から「ありがとうございます」とお伝えしたいです。
4Gamer:
本日はどうもありがとうございました。
「Dinkum」公式サイト
- 関連タイトル:
Dinkum
- 関連タイトル:
Dinkum Together
- この記事のURL: