
インタビュー
[インタビュー]イシイジロウ氏&北島行徳氏による「渋谷実写アドベンチャープロジェクト」,“共犯者”を募るクラファンをスタートした理由を聞く
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しかも,シナリオ担当は「428」を手掛けた北島行徳氏。さらに「街 〜運命の交差点〜」(以下,「街」)で雨宮桂馬を演じたあらい正和さん,「428」で御法川 実を演じた北上史欧さんが出演者としてアサインされているときては,もう実質それらを受け継ぐモノだと言って差し支えないだろう。
そこで今回は,昨日(5月28日)より「うぶごえ」にてスタートした,実施されたプロトタイプ制作を目的とするクラウドファンディングに合わせて,開発の主軸を担うイシイ氏,北島氏へのインタビューを実施した。ゲーム制作はこれからのため,未定な部分は多いが「なぜ今なのか?」「どうしてクラファンなのか?」「プロトタイプ制作とは?」など気になる部分について聞いた。
「うぶごえ」渋谷実写アドベンチャープロジェクト クラウドファンディング
ファンと“共犯関係”を結ぶためのクラファン
4Gamer:
イシイさんがアドベンチャーゲームを手掛けるのは久々な印象です。というか,ここ数年のイシイさんは,ゲームから少し距離を置いていたようにも感じていました。
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はい,まさにおっしゃっているとおり,「違うことをやろう」としていた数年間でした。
レベルファイブで「タイムトラベラーズ」を手掛けた後に独立してストーリーテリングを設立したのですが,その理由の一つがこれまでと違うことをやりたかったからなんです。これは日野さん(レベルファイブ代表)の影響もあります。というのも,日野さんってゲーム以外にもいろんなことを手掛けているんですよね。
やはり,ゲーム会社の所属クリエイターって,できることが限られていますから。でも,ゲーム業界では“キャリアのある人”扱いになっていました。これはありがたいことですし,プラスの部分も多いんですが,先生扱いされるのも性に合わなくて,それならむしろ,ゲーム以外の分野でゼロから新たな評価を得られないかと挑戦してみたくなったんです。
4Gamer:
なるほど。
イシイ氏:
アニメなどの別の業界に行くと「ゲーム業界ではそうだったかもしれないですが……」といった厳しい扱いを受けることもあるわけです。そういう新しい場所でチャレンジを続けて,気付けば独立から10年が経って,自分の代表作みたいなものが見えてきた。
僕でいえば「文豪とアルケミスト」のメディアミックス,北島さんは「ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス」ですかね? 一つの結果が出たなという今,ふと北島さんに「実写アドベンチャーゲーム,またやりません?」と持ちかけたんです。
北島氏:
ここ半年くらいの急な話でしたね。
4Gamer:
大きなきっかけがあって,というよりは自然な流れで?
イシイ氏:
クラファンページのメッセージにも書きましたが,きっかけがあるとしたら,この10年やってきて,誰も「街」や「428」に続くような“ポスト実写アドベンチャー”を作ってくれなかったこと。誰かが作ってくれるだろうと思っていたし,僕自身にもいくつか話がありましたが,結果として何も出なかった。だったら自分達だけでやるしかないか,ということです。
それに,僕から北島さんに声を掛けるときって「(新しいなにかに)殴り込んでいきましょう」っていうことが多くて。
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僕自身は,別のプロジェクトとして群像劇やアドベンチャーゲームのシナリオを3タイトルくらい書いていたのですが,シナリオが完成していたにも関わらず世に出なかったんですよ。
作家人生の代表作になるくらい気合いを入れて書いたものが,いろいろな事情があってダメになっちゃって。
4Gamer:
よくあることではありますが,せっかく心血注いで作り上げたものが世に出ないのは,作り手としてはこたえますよね……。
北島氏:
そういうこともあって,「今の時代にアドベンチャーゲーム,ましてや群像劇って難しいのかな」って気持ちになっていたんです。そんなときにイシイさんから声がかかりました。
ここ数年間,心のどこかで抱えていたものが,ドッと吹き出すような感覚で「やりましょう!」と即答しました。とはいえ,やはり書くのが大変なのは知っているので,多少戸惑いつつ(笑)。
4Gamer:
ポスト「街」やポスト「428」となるタイトルが出てこなかったのは,なぜだったんでしょう?
イシイ氏:
大きいのは,「街」や「428」がどういう性質のタイトルかを理解してくれる売り手,パブリッシャがいなかったからだと思います。「街」や「428」が100万本,200万本売れているならばいくらでも手を挙げる人はいたでしょうけど,そうではない中ヒット作品の“肝”ってなんだろう,と。
ここを分かったうえでの“覚悟”がないと,プロデュースをするのは簡単ではないタイトルなのではないでしょうか。
4Gamer:
セールス的には中ヒットでも,実際にプレイした人達の記憶には深く刻まれている作品だと思います。
イシイ氏:
ですから,本来なら続編をという希望も多いと思いますが,今企画は続編ではなくまったく新しいタイトルになります。スタッフや出演者に同じメンバーも多いですが,別物ですのでご理解ください。ただ,お客様が求めているのは「街」や「428」で感じた興奮をもう一度味わうことでもあると思うんですね。そこには応えたいと思っています。その面白さと期待度を証明するために,プロトタイプを作るというチャレンジを,クラウドファンディングという形で提案しました。これができないことには,本編制作に向けての協力も出資も募れないなと。
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4Gamer:
「街」や「428」はファンの熱量が高いタイトルとして知られていますが,それがクラウドファンディングによって可視化されそうですね。
イシイ氏:
はい。今回のプロジェクトのクラファンページをオープンしたところ,非常に強い手応えを感じました。それは,SNSの反応もですが,プロジェクトの“お気に入り”数が1500件近くきているんです(※インタビュー収録は5月15日)。
しかもそのほとんどが新規の方,つまりこのプロジェクトのために「うぶごえ」のユーザー登録をしてくださった方々なんです。まだリワードの発表すらしていないのに。
4Gamer:
それは心強いですね。
イシイ氏:
一口にクラファンといっても,お得な先行販売的なクラファンもあれば,“夢を売るクラファン”もあるんです。これがまた難しくて,例え何億円も集まったとして,プロジェクトが頓挫するケースはあります。このプロジェクトは絶対にそうなせないと強く思っています。僕達は実現できることしか約束したくない。今回のクラファンをゲーム本編制作と一足跳びのプロジェクトにしていないのも,それが理由なんです。
現状では本編制作をまだ確約できません。もちろん,期待して応援をしてくださる方の中にはリワードとして出演権を設けてほしいといった声もあるようですから,そういったリワードは本編の制作が決まった時点であらためて募集したいと考えています。今回の皆さんの声を聞くにあたって,本編制作に向けた別のクラファンをやることになるかもしれません。
4Gamer:
そこまでクラファンにこだわる理由はなぜなのでしょう。
イシイ氏:
やはり独立性です。「街」や「428」のうようなゲームを待ち望んでいるファンがこれだけいると証明することで,本当に求めているのもの作れるのではと思っています。日本でクラファンが注目を集めるようになって10年ほどが経ちますが,いまだ理想のクラファンって,それほど多く実現していないと思っています。
ユーザーは欲しいものにお金を投じることができて,クリエイターは本当に作りたいものが作れる。両者が直接つながれるのが理想的だと思うんです。ただ,お金が集まっても,実制作における準備不足や見通しの甘さでうまくいかないケースもたくさん見てきました。見てきたからこそ,同じ轍を踏まない自信を持ってこのプロジェクトを立ち上げています。
ですので僕らとしては自信を持って,お客さんとの“共犯関係”を結びたいんです。今回のクラファンでは「皆さんも僕と一緒に“共犯者”になってください」とメッセージを送っていますが,僕らを信じてこのお祭りを盛り上げていただけたらと。お客さんの熱が奇跡を起こすと信じています。
ゲーム制作のテーマは“頑張る中年”
4Gamer:
プロトタイプの制作は,まだ始まっていないんですか?
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はい。現状ではまだ構想段階です。ですが,プロトタイプのコアメンバーは僕と北島さん+アートディレクターは「ラブプラス」の箕星太郎さん,撮影・演出は「428」でも撮影・演出を手がけた飯野 歩さんということは決まっています。さらにデベロッパチームにも声をかけています。このプロトタイプに賛同していただき,ゲームの骨子に関わるクリエイティブな部分については完全な独立性を担保していきたい。そういった考えに賛同してくださる方々にご支援を求めていきます。
現時点では僕と北島さん,あらいさん,北上さん,そして箕星さんは無償で動いている状態です。いわば,ミカン箱の上で歌って踊るドサ回りからの出発です(笑)。そこに人が集まってくれば熱が生まれて,いずれ本編制作に向けて出資をしてくれる人達の目に留まるといいな,と。
4Gamer:
あらいさん,北上さんをキャストに起用したのは,どういった理由からでしょう。
イシイ氏:
ファンとしての自分が「あの絵が一番心に刺さるよね」と思ったからです。それと同時に「え,この絵のなにがすごいの?」という人を黙らせることができる。
あらいさんと北上さんは「街」「428」のファンにとってはアイコン的存在です。逆に,それを知らない人からしたら,なんでゲームファン達がこんなに興奮しているの? と感じるでしょう。そこから興味を持ってもらいたいんです。
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4Gamer:
ゲームジャンルとしてはテキストアドベンチャー,いわゆる“サウンドノベル”と呼ばれるものでしょうか。
イシイ氏:
そうです。クラシックなノベルタイプのアドベンチャーゲームになります。
4Gamer:
ゲームシステムやシナリオといった部分は,構想として頭の中では見えている?
イシイ氏:
あります。やはり皆さんが求めているのは,群像劇による本格的なマルチサイト構造で,パズルを解くように物語を楽しんでいく遊びですよね。それは,もう一種のクラシックスタイルかもしれませんが,誰も作ってくれませんから。
4Gamer:
舞台が渋谷というのも,やはり「街」と「428」を踏襲しようという思いからでしょうか。
イシイ氏:
そうですね。渋谷って当時からもすごく様変わりしていて,しかも現在進行形で大規模な再開発が行われていることもあり,舞台として魅力的です。「街」や「428」には当時の渋谷の様子がまるでタイムカプセルのように封じ込められていますよね。その意味では,今回のプロジェクトも2026年〜2027年あたりの渋谷の街並みを冷凍保存することも目指します。
4Gamer:
そのためには写真撮影が重要になってくるかと思いますが,「428」当時と比べると実写を使ったゲームの制作環境も変わっていますよね。
イシイ氏:
フィルム撮影だったものがデジタル撮影に変わって制作の自由度が上がったように,技術の進歩によってさまざまなハードルが下がっていると思います。とくに現在では,CGであったり機材の小型化であったりも含め,撮影は楽になるだろうと見込んでいます。
4Gamer:
今回のクラファン達成で作ることになるプロトタイプは,どのようなものになるでしょう。
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1時間くらいのプレイ時間で,本編の手触りが分かるくらいのものが作れればと思っています。ストーリーも,あらいさん,北上さんが演じるキャラクターを中心にしたものを考えています。「428」のときに配布した体験版のボリュームに近いかもしれません。
4Gamer:
後のゲーム本編の冒頭を遊ぶような感じに?
イシイ氏:
いえ,本編を作るためのプレゼンテーション的な意味もあるので,ある程度独立したものになる予定です。
いわば,パブリッシャさんへのプレゼンテーション用ムービーをバッカーの皆さんにもお配りして,同時にお名前をクレジットに載せるような形にしたいと思っています。
4Gamer:
あえてお聞きしますが,「街」「428」との関連性というのは?
イシイ氏:
著作権的には完全に独立したものになります。実は「街」と「428」も著作権的にはそれぞれ独立した作品ですので,それと同じような関係性であると想像していただいていいと思います。
なので,同じ役者さんが出演はしていますが,当然登場人物としては別人となります。
北島氏:
ただ,お二人が出演してくれるという話になったからには,当て書き(※出演者が決まっていることを前提にシナリオを執筆すること)でやろうと思いました。
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イシイ氏:
役者さんに関して補足すると,「428」の出演者さんは撮影後の横のつながりも強くて,軽く声をかけてみたところすごくポジティブな反応をいただいています。
4Gamer:
気の早い話ですが,本編の構想についても伺います。群像劇であるということは当然複数人のキャラクターの物語が展開することになるかと思いますが,何人ぐらいを想定しているのでしょうか。
イシイ氏:
現状ではキャスティングや予算規模もまだ決まっていないのですが,ボリューム的には皆さんの期待を裏切らないものにしたいと思っています。登場人物の人数についても未定ですが,多ければ多いほどいいというものでもないので,パズルゲームとして喜んでもらえる規模を下回らない形にしたいですね。
北島氏:
「これだけ読めたら,この先10年はもういらない!」くらいのボリューム感にしたい意欲はあります。……書き切れるかどうかはひとまず置いておいて(笑)。
現状では,大まかなテーマみたいなものはすでにイシイさんと共有しています。
イシイ氏:
出演を依頼したあらいさん,北上さんはすでに50代という年齢。その方々が演じるにふさわしいテーマは追求していきたいし,おそらくプレイヤーの方々にも共感してもらえるのではないかと思っています。アラフォー以降が中心ターゲットとなると一般的には企画が通りづらいので,それができるのもクラファンならではなんですよね。
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年齢を重ねてくると,若い人達に仕事を託したり任せたりしていくのが一般的じゃないですか。
でも僕自身,いろんな現場で若いスタッフと仕事をすることがあるのですが,「まだ俺のほうが面白いもの書くじゃないか」と思う気持ちがずっとあって(笑)。例え若い連中から「老害」とか「目の上のたんこぶ」と言われようとも,負けないっていう炎を絶やさないぞっていうことを最近強く思うようになりました。
そのためには「お前らにコレが書けるのか」みたいな作品で納得させないといけないし,逆に「俺を納得させるモノを読ませてみろ」という気持ちもある。そういう,頑張るというか負けない中年の思いを今回はぶつけてみたいと思います。
イシイ氏:
例えば映画「トワイライト・ウォリアーズ」のサモ・ハン・キンポーですよ。ああいう面倒くさいオヤジ世代がいて,若い世代はそれを超えていかなきゃいけないっていう。
4Gamer:
現実世界でも超高齢化社会になってきていて,上の世代が頑張らないといけない時代が長くなりそうですし。
イシイ氏:
かつては子供に老後の面倒を見てもらうのが当たり前だったけど,今は自分の面倒は自分で見ないといけない時代になってきています。そういう世代観を含めた,大きなテーマになるんじゃないかなと。インディータイトルなので映像的な派手さはないかもしれないけど,物語については妥協したくないです。
4Gamer:
楽しみです。
最後に,クラウドファンディングやゲームの完成に期待をしている方へのメッセージをお願いします。
イシイ氏:
クラファンってある種“お祭り”だと思っているので,受付期間中には「この方が参加を表明してくれた」「こんな方からコメントが届いた」といった発表も随時していく予定です。ファンの方々と一緒に盛り上がっていけたら嬉しいです。
北島氏:
シリアスと笑いと感動が交差する最高の群像劇を書く気満々です。皆さんの熱でこのプロジェクトを一緒に盛り上げていましょう。
4Gamer:
ありがとうございました。
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「うぶごえ」渋谷実写アドベンチャープロジェクト クラウドファンディング
- 関連タイトル:
渋谷実写アドベンチャープロジェクト(仮)
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