全世界で4000万本以上が販売され,家庭用ゲームを世に根付かせたとされるファミリーコンピュータ用ソフト
「スーパーマリオブラザーズ」の発売から,本日(2025年9月13日)でちょうど
40周年を迎えた。
本作は,ゲーム機の処理能力やデータ容量などの制限が厳しく,プレイヤーが持っているゲームの知識も少ない時代に大ヒットタイトルとなった。その点で見ると,本作の開発は,ある意味で現代のゲーム作りよりも困難な仕事だったかもしれない。
そこで本稿では,「スーパーマリオブラザーズ」の
全32コースを改めて見返し,そこから見えてくるさまざまな工夫を書き記していく。
目次
1-1
●地下ルート
ゲームの歴史に残る名コース。まずはハテナブロックでプレイヤーの興味を惹き,
「ブロックを下から叩く」という,本作の基本となるアクションを誘導している。そこから出てきたスーパーキノコは右に滑っていくが,その先の土管で跳ね返ってくるため,ゲームに慣れていないプレイヤーでもまず取り逃すことはない。このあたりは実に練り込まれている。
その先には,順に高くなっていく土管が3つ並んでいて,ジャンプ力が試される。プレイヤーはこの練習を積んだうえで,落ちるとミスになる“本番”の穴に挑むのだ。コースの後半にも,落ちない谷と落ちる谷が並ぶ
“練習と本番”の構造が用意されている。
ラストには,ポールの高い所に飛びつくほど高スコアになるお馴染みのギミックがある。,慣れないうちはジャンプ台となる山から落ちてしまって,低い点数で悔しい思いをすることになるが,ここでもプレイヤーが自然とジャンプを工夫するよう仕向けているわけだ。
土管でジャンプ能力を試しつつ(上),本番の穴に挑む(下)
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1−1は本作における最初のコースでありながら,長さは32コース中14番めと,短くはない。スーパーキノコやスーパースターに加え,隠しブロック(1UPキノコ)や,土管から入れる地下ルート,10コインブロックなど,本作を構成する多くの要素が散りばめられている。
慣れてきたプレイヤーなら,短時間クリアを目指したり,スターの無敵時間中にゴールできるか走ってみたりと,さまざまな遊びも楽しめる。
言葉なしにいくつものチュートリアルを仕込み,プレイヤーが自分で試行錯誤して基本を学べる,計算され尽くした濃密な遊びのフィールド。実際,本作のコースでは1-1が最後に制作されたという(
外部リンク)。
本作の発売当時は,「広大なマップを持つ横スクロールアクション」がまだ珍しい時代だった。もし1-1の完成度がもっと低く,初心者を考慮していないものであったら,家庭用ゲームの歴史はもう少し違ったものになっていたかもしれない。
落ちてもミスにならない“練習用”の谷。この時代のゲームにチュートリアルというものはなかったが,本作の場合は1-1がチュートリアル的なコースとなっていた
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1-2
●地下ルート
ここでは,まず1-1のゴールとなっていた砦からマリオが自動で歩いて土管に入る“カットシーン”が流れ,その後地下でプレイがスタートする。本作の各コースは独立した空間ではなく,広大なキノコ王国の一部分であることが,わずか数秒の演出で表現されている。この演出があることで,プレイヤーの想像はゲームで描かれていないところにも広がるのだ。
1-2では,スーパーマリオやファイアマリオでの
ブロック壊しが重要になる。スーパーキノコ(ファイアフラワー)のブロックや10コインブロックの下に別のブロックが配置されて,まずそちらを壊さないと叩けない構造の部分があったり,大きな体では通れない1ブロック分の通路をブロック壊しで回避できるようになっていたり,といった感じだ。
スーパーマリオ状態ではブロックを破壊できる。初めて遊ぶ人であっても,自然に能力の使い方を学べる
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また,1UPキノコも天井を構成するブロックに隠されていて,スムーズに取るためには天井に穴を開けて落とす必要があるなど,コースを都合の良いように“整形”することを学べる。
そして,開けた穴から天井の上に出て,敵や障害物に邪魔されずに突っ走ることもでき,その先にはワールド2〜4へのワープゾーンが設けられている。特筆したいのは,ショートカットの先にさらなるショートカットを用意するという,
プレイヤーの心理やニーズを読んでいるような配置だ。
天井の上を走って,障害物や敵を無視できることに気づいたプレイヤーの中には,「これは開発者が想像もしていなかったやり方では?」などと考える人が一定数いるだろう。そして,「コースの最後にある土管に入らず,天井の上を走って行ったらどうなるのか?」というイタズラ心が芽生えてくる。
だがその先に待っているのは,「そこまでの腕と理解度をお持ちなんですね。ショートカットなさりたいなら,本物をご用意しましたよ」と言わんばかりのワープゾーンだ。プレイヤーの気持ちを読み切り,誘導さえしている。現代のプレイヤーが初見で遊べば,AIがプレイヤーのニーズを読んでリアルタイムに生成していると感じられるかもしれない。
開発者の上をいったつもりが,実はその手のひらで踊らされていた……という,孫悟空とお釈迦様の逸話のような展開を味わえるコースなのだ。
天井の上に出ると,まるでコースから脱出できたかのようだが,もちろんこの脱出も開発者の想定内
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1-3
「アスレチックコース」などと呼ばれる,小さな足場をジャンプで渡っていくコースが初登場。さすがに1-1のような“練習”はなく,落ちるとミスになる穴のオンパレードとなっている。足場の幅はさまざまなので,これまでのように単に大きくジャンプすればいいわけではなく,距離や高さを制御することが必要だ。
ここでは
左右に動く床が初登場するが,サイズはまだ大きめで,動きもゆっくり。コースの後半には動く床から別の動く床へと飛び移る場所もあるが,かなり近づくタイミングがあるので,落ち着いてプレイすればそう難しくはない。
敵キャラとしては,羽が生えたカメ「パタパタ」が初登場。「羽を取る」「頭と手足を引っ込ませる」「甲羅を蹴る」と,倒すには都合3回踏みつける必要があるので,足場が小さいところでは特に厄介だ。
1-4
城を舞台にクッパ(正確には部下が化けている偽クッパ)と初めて対決するコースで,初登場のトラップ
「ファイアバー」が行く手を阻む。
ファイアバーは,複数のファイアボールをまっすぐにつなげたもので,茶色いブロックを中心に回転する。うまく通り抜けても,近くに留まっていると1回転してきたバーに触れてしまうので,すぐに離れたいところだが,その先に別のファイアバーが置かれていたりして,そう簡単にはいかない。
1-4では,まずファイアバーなしのブロックがあり,その次に通路の上側にファイアバー,さらに上下互い違いのファイアバー……と,徐々に難度が高くなっていく。このあたりはチュートリアル的だ。
偽クッパはコースの最も奥で待ち構えているが,そこに近づくと,姿を見せる前にまず炎だけを飛ばしてくる。地鳴りのような音もついていて,
恐怖を煽る演出として秀逸だ。
偽クッパはファイアボールを5発当てるか,その背後に置かれた斧に触れる(クッパが立っている橋を落とす)ことで倒せる。通常のマリオではジャンプやダッシュといったアクションでクッパをかわさなくてはならないが,スーパーマリオであれば,偽クッパに体当たりし,小さくなった後の無敵時間のうちに斧を取ってもいい。
ファイアボールで倒すには,1回もミスが許されない(このコース内にスーパーキノコやファイアフラワーが出るブロックは1つのみなので,1回でもミスするとファイアマリオにはなれない)ので,ゲームに慣れてきたプレイヤーのモチベーションになるだろう。初心者への配慮と上級者への課題がある,実に優れたゲームデザインだ。
2-1
●上空ルート
●地下ルート
空へと伸びる
豆の木(つる)が初登場。これを登ると,敵が出現しないうえ,多数のコインが並ぶ雲の上のエリアに行ける。もちろん,地上の土管から行ける地下エリアもあるので,2-1は地上と地下と上空に広がるコースということになる。アクションゲームの舞台,そしてプレイヤーが想像力を膨らませるフィールドとして相応しい。
なお,上空のコースですべてのコインを取るには,ある程度のテクニックが必要になる。通常のコースだけでなく,ボーナスステージ的な場所でも腕を磨くモチベーションを与えているわけだ。
2-2
初の
水中コース。これまでは障害物に上ったり,穴を飛び越えたりするために苦労してきたが,水中ではボタン連打で好きなだけ上昇できる。だが,海底の穴に近づくと吸い込まれるギミックがあるので,楽なコースではない。そんな穴の近くにコインが配置されていることが多く,リスクとリターンが考えられていることが分かる。
ここでは,プクプクとゲッソーという2種のキャラが初登場し,水中を彩っている。だが,倒す手段はファイアボールのみで,これまでの「踏みつける」というアクションが使えない。スーパーキノコやファイアフラワーも存在しないので,ひたすら逃げるしかない場面も多くなる。
1-2のような地下コースと同様に,水中コースもまずは土管を通って水中に入り,再び土管を通って地上に戻る。地上と水中をつなげ,世界の広大さを演出しているわけだ。
2-3
吊り橋のようなコースで,基本的に平坦だが,ところどころに穴が開いている。このコースの最も特徴的な要素は,橋の下からプクプクが次々と飛び出してくることだ。それを見てから踏みつけるのは非常に難しいため,ぶつからないようにダッシュすることが定番の攻略法となる。それもあって,特に前半は非常にスピード感のあるプレイを楽しめる。
こう書くと走るだけで簡単に突破できるように感じるかもしれないが,実際にプレイしてみると,コース作りの巧みさに気付かされるはず。後半は吊り橋が切れる部分が多くなったり,橋なのに高低差がついたりと実にいやらしく,スピードを上げづらくなっている。どう進んでもプクプクに引っかかってしまいそうになる,スリリングさを楽しめるのだ。
2-4
2つめの城コースだが,落ちるとミスになる穴が1-4よりも多く,難度が上がっている。難所となるのは,ワイヤーによって動くリフトの奥にファイアバーが配置された場所。ここにはクッパの炎も飛んでくるため,ジャンプのタイミングを計りづらくなっている。ただ,1-2で天井の上に出ることを覚えた人なら,リフトから天井部分に飛び移って楽に進む方法に気付けるかもしれない。
クッパがいる
橋の上にブロックが配置されていて,クッパを一気に飛び越えようとすると,これに当たってしまう。マリオが1-4で戦った結果がフィードバックされて対策を取られているかのようで,言葉で語らないストーリー性を感じられる。
3-1
●上空ルート
●地下ルート
日が沈んだということなのか,ワールド3のコースは空が暗くなり,土管の色もシルバーになって,雰囲気が一変する。さらに3-1は強敵のハンマーブロスが初登場するなど,さまざまな意味で
「もう序盤ではない」と感じるコースだ。
スタート直後に2匹のパタパタがマリオへ向かってくるが,止まらず進めば足元を潜り抜けられる。ギリギリを攻める面白さに気付いてもらうためなのか,それともスリルの演出だろうか。
ラストにはほかのコースと同じようにブロックが積まれた山があるのだが,ここに2匹のノコノコが配置されており,タイミングよく踏めば,有名な
「無限1UP」が可能だ。この無限1UPがあったからこそ,エンディングにたどり着けたプレイヤーは少なくないだろう。
階段状の場所でタイミングよくノコノコを踏むと,放置していても残りのマリオが増え続ける。増やしすぎると,その後のミスで即ゲームオーバーとなるので注意
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「スーパーマリオ オデッセイ」を手がけた小泉歓晃氏へのインタビュー(
関連記事)によると,無限1UPは想定されていた遊び方ではなかったものの,面白いということで仕様として残されたようだ。スーパーマリオシリーズはさまざまな解法を認める懐の深さで知られているが,こうしたジャッジがそういった伝統につながっていったのだろう。
3-1は,基礎を学び終えたプレイヤーに,手強い敵や,より高度だが大きな恩恵があるテクニックを提示するという,起承転結の「承」とするのにぴったりなコースだ。
マリオの残り人数を表す王冠は“お祝い”だった
本作ではコース開始時にマリオの残り人数が表示されるが,これが10を超えると,数字ではなく王冠が表示される。これは不具合や文字化けではなく,残りが2桁になったことを祝うものとして特別に用意されたものだ。任天堂公式サイトの「社長が訊く『スーパーマリオ25周年』」(外部リンク)では,宮本 茂氏が,エンディング曲をループにすることで余った20バイトを使って王冠を表示させようと提案したことが語られている。
3-2
平坦なコースに,ノコノコを先頭とする敵の集団が配置されたコース。普通にプレイすると,こちらに向かってくる敵を次々にさばいていくような感じになるのだが,実は,
前方に蹴ったノコノコの甲羅に後方の敵を巻き込んで倒していくのに最適なコースとなっている。
本作の“原型”と呼べる「マリオブラザーズ」にも,ひっくり返った亀を蹴って倒すというアクションがあったが,「蹴った甲羅に敵を巻き込む」というアクションは,横スクロールのゲームにぴったりで,実に爽快。
気を抜いていると土管などで跳ね返ってきた甲羅に触れてミスとなるが,敵を倒すほどに高得点となり,最後にはマリオの残り人数が増えるという,お得な技だ。
3-3
フラットな3-2から一転して,高低差が激しいアスレチックコース。ワイヤーと滑車で2つの床をつないだ,
天秤のようなギミックが初登場している。マリオが乗ったほうの床は重みで下がり,逆にもう一方の床は上がるので,最適な高さに調整してクリアしていくのが定番の攻略法となる。
言葉による説明はないが,物理法則に則った挙動なので,ほとんどのプレイヤーはすぐにその仕組みを理解できるだろう(「ワイヤーに沿って動く床」も,2-4で登場している)。
天秤の床に乗ったままでいると,下がりきったところでワイヤーが切れてしまうが,同時にスコアを稼げる。どんどんワイヤーを切っていくような“魅せプレイ”も想定しているというわけだ。
なお,最初の天秤の下には足場が用意されている。たとえワイヤーを切ってしまってもリカバリーできる親切設計で,ここも実に丁寧。
3-4
3つ目の城は,
ファイアバーの配置に職人芸が見える。最初に登場する3連ファイアバーは,正確なタイミングとジャンプ操作が必要な難関であり,その後にも,上下で挟み込むような配置のファイアバーが待っている。このあたりは1-4,2-4よりも明らかに“密度”が高く,求められる操作もシビアだ。
なお,ハテナブロックの1つにはスーパーキノコが隠れているが,ぼやぼやしているとキノコが右の溶岩に落ちてしまうという,意地悪な配置になっている。
4-1
●地下ルート
夜を戦い抜き,朝が訪れたということか,再び青空が広がる。このコースでは
ジュゲムが初登場し,雲に乗って上からパイポをばら撒いてくる。パイポは地面に落ちると,トゲ付きの甲羅を持つトゲゾーに孵化。これまでの敵は踏んで倒すのがセオリーだったが,トゲゾーを踏むとミスになってしまう。
ジュゲムは上空を漂いながらパイポを投げてくる。高い足場からジャンプしての踏みつけで倒せるが,しばらくするとまたやってくる
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やっと慣れてきたアクションがミスにつながるという,非常に厄介なタイミングでの出現だが,ほかの敵がほとんど配置されていないあたりには,バランス面での手加減も感じられる。
なお,1-2のワープゾーンから最も遠い飛び先がここ。踏みつけ無効のトゲゾーが沢山出るため,基本ができていないとあっという間にゲームオーバーだろう。ジュゲムは初心者を追い返して上達を促す,門番的な役割も果たしているのかもしれない。
地下のコインを全回収するには,スーパーマリオ状態だと一工夫が必要
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4-2
●地下ルート
●ワープゾーンへのルート
4-1では踏みつけられないトゲゾーが猛威を振るったが,4-2ではファイアボールが効かない
メットが初登場する。ここに来て,マリオのアクションを封じる敵が続けて出てくるのは興味深い。
トゲゾーはファイアボールがあれば割と簡単に排除できるが,メットの場合はマリオがどんな状態であっても,本作の基本である踏みつけが必要になる。
それに合わせたのか,コースの構成も正確なジャンプコントロールを要求するものだ。スタート直後に1ブロック分しかない足場が登場するうえ,土管などに挟まれた小さな空間にノコノコやメットが配置されている。うっかり甲羅やメットを蹴ってしまうと,すぐさま跳ね返ってきてミスになる仕掛けだ。
また,4-2にはワープゾーンが設けられているが,1-2と同じように天井を行くと,ワールド5にしかワープできない。ここは開発者からの「同じ手は通用しませんよ」というメッセージのようにも受け取れる。
ワールド6〜8へのワープゾーンへ行くには,隠れている足場を出し,高いところにあるブロックを叩いて豆の木を出す必要があるのだが,足場の出し方にもコツがあり,何も考えずに出していると豆の木のブロックが叩きづらくなってしまう。こういったところにも,
プレイヤーに上達を促す意図が感じられる。
4-3
林立する巨大キノコの上を跳び移っていくアスレチックコース。1-3や3-3に比べると,全体的に足場が狭くなっているうえ,後半には天秤から天秤へと跳び移るアクションが必要となり,かなり
スリリングだ。
個人的には,巨大キノコの細い柄が,そのスリリングさを強調しているように思う。細いからといって足場が揺れるようなことはないのだが,1-3や3-3に生えている木の太い幹に比べると,どうも不安定さを感じてしまうのだ。
なお,この巨大キノコは4-2と4-3にしか出現しないので,植生分布のような設定があるのだろうか……といった想像も膨らむ。
4-4
城コースも4回目。「そろそろ慣れてきた」などと思っているプレイヤーを待っているのは,
無限ループの罠だ。ルートが上下に分かれるところが2か所あり,正解のルートを選ばないと,何回も同じ場所を通ることになる。
ループするときに説明や画面エフェクトはないので,初見のプレイヤーは,そもそもループしていることに気付くのにもある程度の時間を要した。
クリアするには,スタート直後の分岐で上のルートを行く必要があるのだが,そこには1ブロック分の小さな穴がいくつも空いている。「どうせ落ちるだろうから下を行こう」とプレイヤーを間違ったルートへ誘導するような作りになっているのもいやらしい。
ただ,本作では1ブロック分の穴ならダッシュで通過できる。そのあたりの技を知っていることが,ループ回避につながる作りとも言えるわけだ。
5-1
●地下ルート
直前の4-4は大きな城の内部だったはずなのに,なぜか小さな砦から始まる5-1。ここは3-2と似た平坦なコースで,スタート直後のノコノコを蹴ってダッシュで追いかければ,8体の敵を倒して1UP可能だ。
前半はノコノコやパタパタの甲羅を蹴って突っ走ればいい
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ここまで来られたプレイヤーであれば,前半は苦もなくクリアできるだろうが,もちろんそのまま終わるわけはなく,砲台から撃ち出される敵,
キラーが中盤から登場する。その直前にあるスターを取れば一気に通過できるが,そうでない場合はジャンプのタイミングに気を使うことになる。
また,スーパーキノコ(ファイアフラワー)のブロックがないのも,このコースの地味に辛いところ。ミスしてからのリカバリー力が試される。
5-2
●上空ルート
●水中ルート
強敵ハンマーブロスが3か所(計4体)に登場する難コースだが,土管に入れば水中,豆の木を登れば空を経由してショートカットできる。広大な世界を駆け巡る冒険感が強調された,「スーパーマリオブラザーズ」らしいコースだ。
ハンマーブロスが度々行く手を阻む。下から叩けない場所では特に対処が難しい
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ただ,水中のショートカットコースには,ゲッソーやプクプクが出現し,海底の穴に吸い込まれる危険性もある。ハンマーブロスとの遭遇回数を最小限にできるメリットはあるが,安全な空とのギャップは大きい。
ワールド5の土管の色は3と同じシルバーで,青空や白いつくしのような植物の背景と合わせると,晴れ渡る冬の景色にも見えてくる。ファミコン時代の開発は容量制限が厳しく,限られた絵素材をやりくりすることが当たり前だったが,
土管の色だけで季節を変えてしまうのは,実に巧みな工夫だと感じる。
水中から地上に出ると,本来待ち構えているはずのハンマーブロスがいなくなる
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5-3
一見すると1-3と同じコースだが,動く床が小さくなっているのに加えて,キラーが絶え間なく飛んでくる。1-3と同じジャンプでは足場に届かないようなケースも出てくるなど,難度は一気に上がった。
印象的なのは,プレイ開始と同時に砲台の発射音が鳴り,マリオからは到底届かない場所をキラーが飛んで行くこと。「5-1や5-2と違って,砲台なしにキラーが来ますよ」という警告のようにも感じられる。
このコースは,容量制限から来る
“再利用”ではあるが,それだけに小さくなった床やキラーの厄介さに気付きやすい。プレイヤーからすると,自身の上達ぶりとともに,「まだまだ足りない」と感じさせられる場所かもしれない。
5-4
こちらは2-4を再利用したコースだが,もちろんそのままではなく,2-4でただの茶色いブロックだったところにファイアバーが追加されている。中でも目立つのは,最初に登場する
超ロングファイアバーだ。「バーを避けてキノコを取り,急いで右の足場へ渡る」といった,それまでと同じようなプレイだと,1回転してきたバーに捕まりやすいので,ここではちょっとした発想の転換が必要になる。
本作の序盤では,“練習”と“本番”の構造がいくつかあったが,2-4と5-4は,
ワールドをまたいだ“練習”と“本番”と表現できそうだ。単なる再利用ではなく,「作り手からの挑戦状」という印象を受けるのが興味深い。
2-4では茶色のブロックだったところすべてにファイアバーが付いている
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6-1
ワールド3以来の夜コース。マリオは昼に2ワールド,夜に1ワールド分進んでいることになる。昼夜2ワールドずつの進行ではないあたり,さすがのマリオも深夜は休息を取っているのだろうか……。
2回めの夜となると,かなり遠くまで来た気がする
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ここでは再びジュゲムが登場し,上からパイポを投げてくる。平坦だった4-1では,ダッシュで一気にジュゲムを引き離して逃げることもできたのだが,
障害物が多い6-1だとそれが難しい。さらに,階段の上からトゲゾーが下りてきたり,やり過ごしたと思ったトゲゾーが戻ってきたりと,厄介なシチュエーションも増える。
ただ,高いところの足場,つまりジュゲムを倒すチャンスも増えているので,ここではトゲゾーを避けるのではなく,積極的にジュゲムを倒しに行くつもりでプレイすると良さそうだ。
6-2
●上空ルート
●水中ルート
●地下ルート
全体を通して
土管だらけのコースとなっており,そこからつながる形で2つの地下,1つの水中ルートが用意されている。この3ルートは1回のプレイですべて通ることが可能だ。さらには豆の木から上空へも行けるなど,隠しルートだらけのコースとなっている。
リアルタイムでプレイしていた人は,あちこちの土管でしゃがみ,ブロックを手当たり次第に叩いて隠しルートを探し回ったはず。これからプレイする人も,あえて隠しルートの情報を見ずに,探索の面白さを味わってほしい。
6-3
おなじみのアスレチックコースだが,足場となる木やブロックが
モノトーンで描かれている。出現する敵はキラーのみ(しかも中盤から)となっており,1人でひたすらジャンプテクニックを試されるという,さまざまな点で独特なコースだ。
モノトーンカラーは,降り積もった雪の表現かと思いきや,「スーパーマリオコレクション」に収録されている本作のリメイク版では,ほかのコースと同じカラーリングとなっていて,いろいろと謎が多い。
6-4
こちらは1-4の再利用で,やはりファイアバーが多数追加され,
難度が急上昇している。特に後半の天井に2本,地面に3本置かれたファイアバーは,回転周期を図って突破しなければならない。冷静に観察する目と,タイミングが合った時に躊躇なく踏み込む度胸,パターン化してミスを少なくする工夫のすべてが求められるのだ。
偽クッパが待ち受ける部屋には,1-4同様にジャンプ対策のブロックがない。となると最後は大きくジャンプして偽クッパを飛び越えればよさそうだが,実はここからの偽クッパは
ハンマーを投げてくる。いよいよ冒険も佳境に入ったことを感じさせてくれるコースだ。
7-1
●地下ルート
ハンマーブロスのコンビが2組も待ち構えているうえ,多数の砲台が設置されており,「画面内には常に砲台かハンマーブロスがいる,場所によっては両方いる」といった感じの手強いコース。安全を期すなら,砲台の上から次の砲台へ跳び移るような進み方が必要になる。
さらに,パタパタやメットは蹴った甲羅が跳ね返ってくるような地形に配置されていて,うかつに蹴るとミスにつながる。敵を確実にかわし,正確に踏む,高いテクニックが問われるコースといえるだろう。
ここにも地下ルートがあるが,実は1-1や2-1といった序盤に登場したものと同じ。終盤の激しいバトルの最中に,もはや懐かしささえ感じるような地形が出てくるとホッとしてしまう。
7-2
2-2と同じ構造の水中コースだが,
ゲッソーやプクプクの配置などが変えられて,難度は上がっている。
ここも再利用というわけだが,地形を流用してコースを増やすアイデアは,開発当初からあったことが,任天堂公式サイトの「社長が訊く『ゼルダの伝説 大地の汽笛』」で明かされている(
外部リンク)。
また,この記事によると,当初は3-2も水中コースとして考えられていたという。それが変更された理由は不明だが,夜の水中面がどんなものになったのか,気になるところだ。
まったく異なるアクションに同じ効果音が?
水中コースでマリオが泳ぐときの音は,敵を踏んだ時の音と同じ。容量を節約するために共用しているのだが,水中ステージに「敵を踏む」というアクションは存在せず,泳ぐときは連続で再生される一方,敵を踏んだときは少し間が空くため,同じ音だと認識しづらくなっている。
このような例はほかにもある。スーパーマリオやファイアマリオのときに敵に触れて,小さくなってしまうときの音と,土管に入るときの音は同じだ。
容量節約という必要に迫られての仕様とはいえ,まったく性質が異なるアクションに同じ音をつけて違和感を覚えさせないのも,“匠の技”と言えそうだ。
7-3
こちらは2-3の流用コース。吊り橋の下からプクプクが飛び出してくるのも同じだが,ここにしかいない
“新種のパタパタ”が登場する。ここまのコースでは,マリオに向かって飛び跳ねてくる緑パタパタと,空中を上下に往復する赤パタパタがいたのだが,ここで左右に往復する緑パタパタが出現するのだ。
見た目は同じでも動きが違うので,初見のプレイヤーは驚き,流用コースでも新鮮さを感じられただろう。
7-4
4-4から2ワールド置いて
無限ループが再登場。ルートの選択肢が増えて,確率12分の1のチャレンジを2回成功させれば偽クッパの居場所にたどり着ける。ちなみに4-4では確率2分の1のチャレンジを2回だったので,かなり難しくなった。
4-4でもそうだったが,ループの部分には敵が登場せず,ファイアバーなどの仕掛けも少ないので,謎解きに集中できる。とはいえ,初めてプレイする人は,自分がどのルートを通ったか,都度記録しておかないと,無駄が多くなりそうだ。
ループ部分では,何度も同じ場所を通るうちに焦りが生まれたり,プレイが雑になったりして,ミスが発生しがち。そのあたりの心理を使用したコースとも言える。
8-1
●地下ルート
最終のワールド8は,
1-1の約1.85倍というロングコースで幕を開ける。しかも制限時間は300(1-1は400)と少なく,コース途中の再スタートポイントもないので,ダッシュは必須だ。
このようなコースなので,ここまでたどり着いたプレイヤーであっても,焦りからのミスが発生しやすい。メットを蹴ってダッシュで追いかけていたら土管で跳ね返ってきてぶつかる,1ブロック分の穴が続く地形をダッシュで走り抜けたら最後にノコノコがいて突っ込んでしまう,といった感じだ。
加えてスーパーキノコ(ファイアフラワー)もないため,通常のマリオでのスタート時は,ノーミスがクリア条件となる。その一方で,甲羅(メット)を蹴って敵を撃破できる場所が複数あり,ラストはスターの無敵状態で一気に突っ走れるなど,スピード感を楽しめる作りになっている。
8-2
●地下ルート
序盤はジュゲムが襲来し,中盤以降はキラーが飛び交う中でパタパタに対処しなければならないコースだが,印象的なのは,序盤にある屋根がついたようなエリアだ。
下にあるジャンプ台を使って上のブロックを叩くと,1UPキノコが出現し右に滑っていくのだが,それを取ろうとすると,何匹ものパタパタをさばきつつ,穴だらけの場所をキノコのスピードに合わせて進まなければならなくなる。プレイヤーは1UPキノコ欲しさに無理をして,まんまとやられてしまうのだ。
1UPキノコを取り逃すまいと,気ばかり焦ってミスをする
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もちろんスーパーマリオ状態であれば,キノコが出るブロックの右に穴を開けて取るといったことができる。ただ,ミスの誘発が目的なら,屋根を壊れないブロックにすればいいような気がするが,そうなっていないのは興味深い。
単にミスへと誘導するのではなく,
プレイヤーによる対処の余地を残す絶妙なバランスだ。
向こう側が見えない大穴。予備知識がないと行き止まりのようにも見える
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8-3
城壁の合間に砲台が多数置かれ,まるで戦場のような雰囲気のコース。待ち構えるのはハンマーブロスたちで,彼らが投げるハンマーの弾幕は見ただけで圧倒されてしまう。
その一方,落ちるとミスになる穴やジャンプで渡らなければならないブロックは少なめ。
ハンマーブロスとの決戦にフォーカスしたコースだ。
倒すにしても逃げるにしても,彼らの動きをじっくりと見ることが必要なのだが,制限時間は300と短めで,まだ生々しい8-1の記憶がプレイヤーを焦らせる。スーパーキノコが出るブロックが2つあるのが救いだ。
城壁に紛れるようにして,10コインブロックが配置されている
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8-4
ついに最終決戦,本物のクッパが待ち受ける城だ。
またしても無限ループがプレイヤーを翻弄するが,ここでは通路ではなく,
土管が選択肢となる。そして,正解の土管の中には,隠しブロックを足場にしないと入れないものがあるので,予備知識がないとかなりの試行錯誤が必要だ。
ループの謎解きに重点を置いているせいか,攻撃や罠の配置はそこまで厳しくないが,それがかえって不気味さを感じさせる。城の中なのに下からプクプクが飛び出してきたり,水中でファイアバーが回っていたりと,
ここに来ても驚かされることは多い。
クッパを倒せれば,ついにピーチ姫の救出も叶い,マリオの冒険は終わる。今のゲームのようなチュートリアルなどなく,アクションのテクニックに加えて無限ループを解く力まで問われるだけに,本作のクリアは当時のプレイヤーにとって勲章だった。
クリア後は[B]ボタンで開始ワールドをセレクトできるほか,クリボーがメットになるなど,高難度化した裏面を遊べるようになる。
裏面はやはりプレイ感が大きく違い,2-2と7-2に見られるような「コースを再利用してゲームのボリュームを増す」というコンセプトが,より大きな形で実現されていることが感じられる。その巧みさには感嘆するほかない。
裏面では,クリボーがメットになっている
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「スーパーマリオブラザーズ」は伝説のゲームである。伝説と呼ばれるゲームの中には,今ではもう遊べないものも多いが,本作はNintendo Switch Onlineなどで今もなお現役の伝説だ。
発売から40年が経過した現在から見ても,コースの構成やレベルデザインの巧みさには驚かされるばかり。本稿には筆者の解釈も多く含まれているので,40周年を機に「スーパーマリオブラザーズ」を遊び直し,ぜひ自身での解釈を考えてみてほしい。特にゲーム作りを志す人は「スーパーマリオブラザーズ」から学べるところも多いはずなので,本稿がそのきっかけになれば,これ以上の喜びはない。