
連載
蓬萊学園の揺動!
Episode02
いずれ学園の危機を救うことになる
ヒロインは授業に出席した!(その6)
ぐらぐら。ってもうわたし人力車から降りてます。ということは、これは……今度こそわたし自身が揺れてる!
「地震!」
「え、何これ何これ」
「きゃああ!」
「噴火だ! 宇宙陰謀研の予言が当たったぞ!」
あちこちで叫び声。
そうなんです、わたしだけじゃないんです。まわりの建物や地面んまでもが共振して揺れはじめてます!
「危ない!」
古い電信柱が倒れてきます。間一髪、京太くんが手をひっぱってくれてセーフ。でもちぎれた電線がバチバチいってます!
いつのまにか、まわりのお店が薄暗くなってます。停電です!
そうだ、紫苑さまは!? と馬車のほうを見るとアミ先輩が倒れた電柱をつかんで振り回してます。
「あいつら逃がしたらあかん!」
でも停電が! 停電が! 大通り沿いのお店が次々暗くなってゆきます!
もうすっかり大停電、大事件、大パニック! 人力車とタクシーが玉突き衝突、悲鳴と怒号と暴れ牛、裏通りでは謎の爆発、水道管も破裂して、ついでに地面が陥没してます!
「紫苑さまああ!」
わたし、ようやく馬車に飛びつき、扉を開けて、いとしの愛しの紫苑さまにしがみつこう……としたのに、なぜかそこには誰もいませんでした。
代わりに、ほどけた荒縄と猿轡が。
「あ、速報が」京太くんの呑気な声とスクロール。「えーと、大食堂横で校内巡回班の交通規制にひっかかって無事救出、だそうです。新聞部ウェブ班によりますと、紫苑さんは途中で自力で脱出しかけたが再度つかまって別の馬車に移されてたようで……あー、ぼくらがあの得物屋さんに突っ込んだ時ですね」
京太くん、モーニングスターを馴れた動きでクルリと振ります。
がっくり。せっかく私が救出してこれから一大ラブロマンが始まるはずだったのに……じゃなくて、この私のせいで拐われてしまった紫苑さまを助ける責任が、私にはありますから! これをチャンスにとか、強い抱擁とか、近づく二人の熱い唇とか、レースに飾られた天蓋付きベッド(クイーンサイズ)で半裸の二人がめくるめく、とかそういうこと全然まったく思ってないですから!
「何を思ってないですって?」
ふ〜、ぎりぎりセーフです。わたしの邪悪な18禁妄想は読み取られなかったようです。よかったよかった。
「何がよかったんですか?」
「いえ何でもないです」
「おう、そよ子ぉ無事け?」アミ先輩、わたしの背中をバンバン叩いてきます。ちなみに右足は陰謀部員を踏みつけてます。それから急にしおらしく、「きょ、京太くんも、ケ、ケ、ケガとかあらへん? 痛いとこあるん? さすったげよか? アメちゃんあげよか〜?」
「あ、大丈夫ですおかげさまで」
ペコリと丁寧にお辞儀する京太くん。アミ先輩は両手を頬に当て、ほっぺた真っ赤で身をよじってます。なんでこれで京太くんは先輩の気持ちに気づかないのでしょう。ホンマどないやねん、じぶん。
と、わたしの内的モノローグが適当な関西弁に再び傾きかけた時。
先輩に踏まれてる陰謀論部員が、
「う、……牛……」
私を指さして、つぶやいたのでした!
失礼な!
わたし、牛じゃないです! どっちかっていうと野ウサギって言われますし!
「いやそういうことじゃなさそうですよ……もしもし、何だって? 何か伝えたいことがあるんですか?」
京太くん、駆け寄って耳を近づけました。アプちゃんも物珍しげに鼻先を寄せます。
そしたら。
「牛……縄……滝、妖花…死…」
そこまでつぶやいたかと思うと、そのまま部員さんはバッタリ気絶してしまったのです。
で、午後の授業を無視して、わたしたちは昼食をいただくことにしました。
おなか空いてたのもありますが、例の評判ランキングがあまりにもショックだったのです。見なきゃいいのにと言われればまったくそうなのですが、それをつい見てしまうのがこのSNS時代というわたしたちに押しつけられた宿痾なのです。
学食横丁の停電が終わらず、駆けつけた公安委員の先輩方に事情聴視されているあいだに、わたしの評判……というか悪評は、更に高まっていました。
講堂の魔女どころか、
学食クラッシャー
爆走ガール
昼食アマゾネス
等々……。
「こんなんじゃもうお嫁に、じゃなかった授業に出席できないです! ああわたしの純潔が!」
「せやったらまぁ飯でも食おか?」
というアミ先輩の提案で、わたしたちは学食横丁の西に広がる森の中へと抜け出たのです。
「どうしてこちらへ?」
「ええ店あんねん。どのみち学食横丁は停電でワヤやしな」
森の半分はヤシの木とかガジュマルとかで、残り半分はあまり見たことのないクネクネねじれた樹木と蔦でした。
そこかしこに崩れかけた東屋とか洋館とかが見え隠れして、地図によればこのあたりは森だけのはずですが。
「そこは蓬萊学園、いろいろ未発見の建物があるってことですよ、そよ子さん」
学校の敷地内に未発見の……ってどんだけ異様な場所なのでしょうか。
「異様と驚異は蓬萊学園のミドルネームですから」
とニコニコ顔の京太くん。もういつの間にか、わたしの内的独白と対話してます。
「まあそのほうが描写のテンポもアップするので……あ、ここですね」
ちょうど苔が途切れたところで、わたしは足を止めて見上げました。アミ先輩も大きくうなずいてます。
そこには半分ひしゃげたようなキャンピングカーがあり、入り口の上に掲げられた大きな板には墨跡も鮮やかに、上下さかさまの「屋」そして三つの環が互いに重なるように描かれたのです。
「……アウディ屋さん?」
「ははは」とアミ先輩。「惜しいなあ。〈みわさかや〉読むんや。きっちり読めたやつだけが入店できんねんで」
というわけでそこが学園でも知る人ぞ知る、と言いますか教えてもらえないと決してたどり着けない絶品ラーメン屋、なのでした。
外見は普通の自走式キャンピングカー。
内装は何故だか純和風の(というかほとんど日光江戸村にありそうな)木造そば屋、という体裁。
「兵ちゃん、いつものな。三人前」
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