本イベントは,2025年7月に京都で初開催され,今回は会場を東京に移し,2日間にわたって行われた。
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1日目のキーノートとして,ゲーミフィ・クリエイティブマネジメンツ代表の石神康秀氏が登壇し,シリアスゲームを収集・保存し,研究や展示,教育普及につなげるシリアスゲーム・アーカイブプロジェクトの概要や背景を説明した。
また,キーノートに続き,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの𥱋瀨洋平氏との「シリアスゲームにおけるアナログとデジタルの接点」をテーマにしたクロストークも実施されたので,その模様をお届けする。
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※記事中スライド写真は,Docswell公開資料より
石神氏は,ボードゲーム「編集者」として活動している。自分自身がクリエイターとしてゲームを作るのではなく,現場の人を作家として迎え,課題の整理やボードゲームとしての表現の検討など,多方面から制作を支援し,伴走するのが仕事だ。
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シリアスゲーム・アーカイブプロジェクトと今後の展望
講演の冒頭で,石神氏は会場に挙手を求めた。「シリアスゲームがどんなものかなんとなくわかる人」を聞いたところ,相当数の手が挙がった。続いて「シリアスボードゲームを5個以上やったことがある人」を尋ねると,今度はごくわずかだった。
石神氏はこの落差こそが講演の趣旨につながると続け,シリアスゲーム・アーカイブプロジェクトの説明に入った。このプロジェクトの目的は,「シリアスゲーム・アーカイブの構築」である。
多くのシリアスボードゲームを収集・保存し,多くの人が分析・研究・参考にできる状態にすることが目的で,この活動によりシリアスゲーム開発全体の進化を目指している。
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現在のシリアスゲームについて,石神氏は,自身の見方ではあると前置きしつつ,全体的にレベルが低いと説明した。大学の研究室では,1年かけて作ったゲームを発表会で披露するが,翌年には使われない。
企業でも,研修用に作ったゲームが新人研修で1度使われたが,翌年は翌年の予算で別のことをやるために,もう使われなくなってしまう,といった問題があるという。
なかにはよくできたゲームもあるが,この構造のせいで,ゲームのノウハウが継承されず,翌年は別の制作者が同じトラブルに引っかかってしまうのだ。
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制作者の技術不足による問題ではなく,「知らない」のが原因で,独学の限界も課題の1つだ。シリアスゲームの歴史は浅く,講師や大学教員もシリアスゲームのことを独学で学んでおり,教える構造などがまだ出来上がっていないという。
モノづくりの考え方でゲームを作れること,研修系のシリアスゲームで振り返りがフォーマットとなっているが,その振り返りがなくても勝手に学べる仕組みを作れること。こうしたことを知らないために,開発の幅に制限が生まれてしまう。
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このような状況を打開するために,「知る」ためのインフラを整備する必要があり,その役割を考えていくと,博物館の定義と重なった。それが,博物館を作ろうという動機になっている。
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概要を説明したところで,石神氏は,ボードゲーム編集者という職業の説明に入った。
同氏は,大学でソフトウェア工学を専攻し,要件定義や要求定義を中心に学んだ。
IT業界ではエンジニアやコンサルタントとして,「目的に沿ったものを作らないと意味がない」という信念のもとに仕事をしてきたが,大規模なシステム開発ではさまざまな関係者の思惑に巻き込まれ,本質的な問題を指摘してもどうにもならないことが多かったという。
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転機になったのがボードゲームとの出会いだ。企業のITシステムを作る場合,話せるのはIT担当者までで,現場の本質的な課題に触れる機会はなかなかない。
しかしボードゲームを作るとなると,社長に近い立場の人が出てきて,会社の根本にある思いを語ってくれる。この「本質に触れられる面白さ」がボードゲーム編集者になった動機だという。
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5年分の店舗経験をゲームで――サイゼリヤに聞く,ボードゲームを活用した社員教育。「オリジナル店舗運営ゲーム」の顛末を制作陣に聞いた
レストランのサイゼリヤが,「サイゼリヤオリジナル店舗運営ゲーム」を制作し,社員教育を行っているという。一般には馴染みがない研修用ゲームだが,いったいどんな内容で,どんな風に運用されているのだろうか。ゲームを手がけた開発元と,サイゼリヤの担当者に話を聞いてみた。
- キーワード:
- インタビュー
- ライター:瀬尾亜沙子
- ANALOG
- 企画記事
企業とのゲーム開発では,打ち合わせに3か月ほどかけるが,そのうち7割はゲームの話ではなく,「何がしたいのか」「何が課題なのか」という深掘りに費やすという。
大学の授業でも,前期はゲームの話をさせず,課題の深掘りにフォーカスさせているそうだ。
本質を捉えて,深掘りするというのが,石神氏のスタイルであり,これまでの制作実績は,サイゼリヤオリジナル店舗運営ゲーム,情シスすごろく,目標管理ボードゲームなど150件以上に及ぶ。
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石神氏は自身の活動について,センスや閃きではなく,ソフトウェア開発のように手順の決まった再現性のある工学的手法でのアプローチでやってきたと説明した。
アプローチに手ごたえは感じているものの,その手法が良いのか,ほかと比べてどうなのか,分からない。だからこそ,比較して,評価してもらえる仕組みを作りたい。それが,石神氏のシリアスゲーム・アーカイブプロジェクトの根幹にあるという。
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石神氏は現在,企業や自治体,NPO,研修講師などを対象にゲーム開発支援を行うほか,大学や学習塾でのレビュー,技術書典での同人誌刊行など,多方面で活動している。
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また,教育・研修・社会課題をテーマにしたゲームを集めた展示会「Play&Learn」を半年ごとに開催している。ブース数は50以上,出展者200人以上,来場者は100人くらいに成長しているものの,40万〜50万円くらいの赤字が発生しているという。
比較の場を実現するための試みの1つとしており,4月19日に第5回が開催された。
博物館については,今年中にどこかに「準備室」を設けることを目標に掲げている。
実際に,大学の通信講座で学芸員資格を取得し,現在は場所探しの段階だという。
石神氏はシリアスゲームが「文化」になりえるとの信念を示し,将来的には「シリアスゲーム工学」といった考え方にも発展させたいと語った。
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クロストーク:シリアスゲームにおけるアナログとデジタルの接点
キーノートに続き,石神氏と,ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの研究者/アドボケイトである𥱋瀨洋平氏によるクロストークが行われた。
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このクロストークのテーマは,デジタルゲームとアナログゲームの業界間にある見えない壁を探り,シリアスゲームという括りでそれを越えられるのではないかというものだ。
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石神氏はまず,デジタルとアナログの業界には交流がなく,一緒にイベントを行うこともほとんどないという現状認識を示した。
これに対し𥱋瀨氏は,自身の観測範囲では,実は結構交流はあると思うと返した。デジタルゲームのクリエイターが,ゲームマーケットでボードゲームを売っているケースはかなりあるという。
𥱋瀨氏は,デジタルゲームの仕事が中心で,まわりにもデジタルをメインにしている人が多いため,アナログゲーム業界の人たちの特徴までは詳しくは分からないと補足した。
石神氏は,コロナ禍をきっかけにアナログゲームのオンライン版を作るケースは増えたが,それはあくまで「オンライン版を作っているアナログゲームの人」であり,デジタル業界に合流したわけではなく,どこか線引きがあるように感じていると続けた。
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次にアナログゲームとデジタルゲームの制作手法について。𥱋瀨氏は,根本的には同じだと思っているという。どちらもプロトタイピングから始まる。
大学でゲームデザインなどの授業も受け持っている同氏だが,デジタルゲームを作るための制作思考を学ばせるため,アナログゲームから入り,トライアンドエラーを体験してもらうということもしているそうだ。
アナログゲームという時点で,手段が限られ,物理法則にも縛られるため,リソースが限定される特徴もあると説明した。
それに対し,石神氏は,デジタルゲームのほうが制限が厳しいと思っていたという。デジタルゲームは,ジャンルによってアセットなどの方向性が決まっていく印象があり,逆にボードゲームは,かなり自由で,紙を破ってもいいし,食べてもいい,という自由度があると説明した。
ただ,100万ユニットを出すとかは難しいよね,と𥱋瀨氏は答え,スケール的な発想ではデジタルゲームが,手触りや物理法則に任せる部分ではアナログゲームが,それぞれ自由度が高くなるのでは,と見解を示した。
そのまま,扱えるテーマについて話が広がった。例えば,「人生」をテーマにすると,多くの人がすごろくを思い浮かべ,そこから改良を加えていくと,𥱋瀨氏は説明した。
石神氏は,このゲームを真似したとき,多くの人が失敗するのが,何か1つを置き換えることだと続ける。何かを置き換えたとき,そのままでは1つの指標がすべてを決めるゲームになりがちで,人生って本当にそうなんだろうか,となってしまう。
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また,オリジナルのゲームは,プレイヤーが1人の人生を終えられるようになっているが,普通にゲームを作ると,1人の人生を1本にしてしまい,プレイヤーはそれを断片的に体験するようなものになってしまう。
𥱋瀨氏は大学での実践例を紹介した。学生に自分の人生を1点から100点の範囲で採点させ,点数順に並べてチーム分けをする。
スーパーネガティブからニュートラル,スーパーポジティブまでグループが分かれ,各チームが作るゲームの方向性がまったく違うものになるという。
スーパーネガティブチームは,ゲーム開始前に「親ガチャ」を振るところから始まるゲームを作ったそうだ。同じマスにいても親の階層によって結果が異なり,途中でステージを変えるチャレンジはあるが失敗すれば転落する。
ただネガティブ一辺倒では終わらない設計になっていたという。
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石神氏は,アナログゲーム界では遊ぶ側のマニアは多いが,作る側で多くのゲームを遊んできた人は意外と少ないと指摘した。自分では作っているが,そこまで幅広くはプレイしていないという人が多い印象だという。
𥱋瀨氏はデジタル側でも同じ傾向があると返した。ゲーム開発者が意外とメジャータイトルを遊んでおらず,どちらかといえばインディーゲームなど,まだ発見されていないメカニクスを求める傾向がある。
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クロストーク終盤では,今後の融合の可能性について話題が移った。
𥱋瀨氏は,もともとデジタルとアナログが融合するのはVR方向だと考えていたという。表情や態度が伝わるようになれば,デジタル空間上でボードゲームを完全にプレイできるようになる。
ただし触覚などは,1000Hz程度のサンプリングレートが必要であるなど,技術的なハードルはまだ高いとも述べた。
一方で,映像から心拍数を取得してお互いのデータが見える状態でゲームをするといったことは,テクノロジーで可能になるかもしれない。
デジタルとアナログの具体的な融合事例としては,ARを使ったカードゲーム「THE EYE OF JUDGMENT」や,位置情報を使ったゲーム「Ingress」「Pokémon GO」などを挙げた。
𥱋瀨氏は,日常に習慣をつけさせたり,リハビリに使ったりといったゲーミフィケーション的なアプローチについて問われると,ゲームという言葉を使わないほうがいいと語った。
ゲームといった瞬間に,派手なものを期待させてしまいがちだ。
𥱋瀨氏は,クリス・クロフォードのゲームデザイン論を引用し,インタラクティビティとは「想定可能性に対する達成可能性」であると説明した。分母である想定可能性をコントロールすることでも,インタラクティビティを高められる。
一方で,想定可能性を高くすると,インタラクティビティは下がるというのが重要で,派手な言葉は使わず,「こういう効果があるアプリケーションです」と伝えておいて,触ってみると手触りがよく,ちょっと楽しくて続けてしまう。
その「予期しなかった楽しさ」が評価を上げるのだという。
石神氏が「めっちゃ聞きたい話の途中で」と惜しんだところで,次のセッションの時間が迫り,クロストークは終了となった。











































